患者の家族が急死、初めての出産、排泄で失敗…こんなときの「いいケア」とは? 医師や看護師と本気の対話を重ねてたどり着いた"本質"

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この本質定義に加えて、この時はさらに次のような言葉も加えられました。

「いいケア」の実現のためには、「対等性の志向」「対話的なかかわり」「ケアする人の(結果的・事後的な)貢献感」が必要である。

これら3つは、「いいケア」の実現条件と言うことができるでしょう。本質観取は、物事の本質を洞察することで、「ではどうすればいいか」まで考えを深めていくことができる営みなのです。本質定義を簡潔な言葉にするだけでなく、このようにさらに発見を広げていくのも、本質観取の醍醐味の一つです。

このことについては、あとで本質観取を「書く」「叙述する」ことについてお話しする際にも、少し立ち戻りたいと思います。

「セルフケア」について考える

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さて、以上のように本質定義が定まれば、それが(2)で挙げたすべての事例にちゃんと当てはまるかどうか確認していきます。場合によっては、(2)には挙がらなかった例も改めて考えて、さらに吟味してもいいでしょう。

たとえば、(2)のステップでは出てこなかった「セルフケア」について考えてみましょう。

「ケア」は、必ずしも他者に対してだけするものではありません。そんな「セルフケア」の場合にも、もしもそれを「いいケア」と呼べるとするなら、そこに「自覚的・無自覚的な〝この私〞の願いを想像したかかわり」があると言えるでしょうか?

さしあたり、言えそうに思いますが、みなさんはどう思われるでしょうか?

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苫野 一徳 熊本大学大学院准教授/哲学者・教育学者

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とまの いっとく / Ittoku Tomano

1980年生まれ。熊本大学大学院教育学研究科准教授。博士(教育学)。早稲田大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程修了。専攻は哲学・教育学。経済産業省「産業構造審議会」委員、熊本市教育委員のほか、全国の多くの自治体・学校等のアドバイザーを歴任。著書に『学問としての教育学』(日本評論社)、『「自由」はいかに可能か』(NHK出版)、『どのような教育が「よい」教育か』(講談社選書メチエ)、『勉強するのは何のため?』(日本評論社)、『はじめての哲学的思考』(ちくまプリマ―新書)、『「学校」をつくり直す』(河出新書)、『教育の力』(講談社現代新書)、『子どもの頃から哲学者』(大和書房)など多数。
※写真:©eri yamada

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岩内 章太郎 豊橋技術科学大学准教授

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いわうち・しょうたろう / Shotaro Iwauchi

豊橋技術科学大学准教授。著書に『新しい哲学の教科書 現代実在論入門』『〈私〉を取り戻す哲学』(ともに講談社)など。

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稲垣 みどり 順天堂大学国際教養学部准教授

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いながき・みどり / Midori Inagaki

順天堂大学国際教養学部准教授。著書に『共生社会のためのことばの教育 自由・幸福・対話・市民性』(共編著、明石書店)など。

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