「初めて本当の暗闇を味わった」新宿育ちの青年が、能登の被災地で感じたこととは? 地方での体験が都市生活のヒントになる

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高橋:地震や津波、豪雨といった災害は、この養殖いけすの外にある自然が、境界を壊して中に入ってくることだと思います。

これは非常に恐ろしいことですが、一方で自らいけすの外に出てみるという選択肢もあります。自分より大きい魚に食われるリスク、未知の海流にさらわれるリスクもあるけれど、いけすの中では知らなかった美しい風景や、おいしい食べ物に出合う可能性もあります。

窪田:そのリスクと可能性のバランスを試せるのが、関係人口という地方との関わり方なのですね。自分は海が好きなのか山が好きなのかだって、行ってみたら予想と違うこともあるかもしれません。定住前のステップとして自分に合った場所を探せるなら、ハードルはぐっと下がります。ぜひ多くの人に試してもらいたい方法ですね。

関係人口とサウナの「共通点」

高橋:関係人口のあり方をもうひとつ例えるなら、僕の大好きなサウナにも似ていると思います。90度以上の密室で汗をかいて、毛穴が開いた後に水風呂という正反対の世界に入る。それを繰り返すことで整っていくというのが、関係人口の「行ったり来たり」の方法に非常に近いかなと。都市と地方を行き来すると、心が整うんです。

都市の生活に生かせる新しいひらめきや発想も生まれるし、視野も大きく広がります。日本人は、とにかくもっと移動するべきだと思うんです。

窪田:縮小しているといわれる現代人の脳も、きっと活性化するでしょう。高橋さんが取り組みを続ける中で、「関係人口」になることで変化した人に出会ったことはありますか?

高橋:たくさんあります。例えば2024年の能登半島地震のとき、被災地支援の中で、新宿区で生まれ育ったという青年に出会ったことがあります。停電が続く中、その青年は「生まれて初めて本当の暗闇を体験した」と言っていました。

それによって、彼は不夜城と呼ばれる自分の故郷の素晴らしさを知り、一方で都市化によって自分たちが失っていたであろうものにも気付いたようでした。つまり、正反対の世界に触れることで自分の日常を相対化し、その価値と課題をつかんだのです。

能登半島地震の被災地での支援活動。前列右が高橋さん(本人提供)
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