でも登校初日に、自分の心配は杞憂だと気づいた。二学年の生徒は七人だけで、みんな物静かで、どこか牧歌的で、奈央はなんとなく羊の群れを想像した。
そして入校して一週間が過ぎたころに、奈央には友達ができた。倉田君という、坊主頭で素朴な顔立ちの男子だった。人生で初めての男友達だった。
倉田君に勧められて、奈央は軽音部に入ることになった。放課後、彼に連れられて部室を訪れる。青葉丘中学に音楽系の部活は吹奏楽部しかなかったから、部室にエレキギターやらアンプやらが置いてあることに驚いた。
訊けば、中等部で軽音部の生徒は倉田君一人だという。
「一人で、どんな活動をしているの?」
「いや、ぼっちで困ってたんだよ。たまに顧問の亀田ちゃんが、カホン叩いてくれるけどさ」
「倉田君はなんの楽器やってるの?」
「もちろんギターだよ。俺さ、洋次郎さんみたいなギターボーカルになりたかったんだけどさ、残念ながら絶望的に歌が下手なんだよ。なにやっても褒めてくれる婆ちゃんに聴かせたらさ、こりゃあかんわ、お世辞にもうまいとはいえんな、とか言われちゃってさ。でもさ、男女二人組のユニットもいいかなって思ってさ。俺がギター弾くから、楠木さんが歌ってくれればいいと思ってさ」
「わたし、別に歌うまくないけど」
「別にうまい歌が欲しいわけじゃなくてさ、魅力的な歌が欲しいんだ。俺さ、すごく耳がいいんだ。子供のころにピアノ教室に通わされててさ、絶対音感があるとかじゃないけど、とにかく耳はいいんだ。この間さ、音楽の授業で歌の練習があったでしょ。俺さ、あのときあちこち歩き回って、こっそりみんなの歌を聴いてたんだ。俺さ、楠木さんの歌好きだよ」
奈央は自分でもよく分からないが、ぼろぼろと涙が頬を伝っていった。その姿を見て、何かまずいことを言ってしまったのではないかと、倉田君は慌てふためいていた。奈央は両手で涙を拭う。
涙を拭い、演奏が始まる
「大丈夫、目にゴミが入っただけだから」
「そ、そうか、目にゴミが入ったのか……」
「倉田君、ギターは何が弾けるの?」
「スピッツの楓(かえで)のコードなら弾けるよ」
倉田君のあまりうまくないギターに、奈央はハミングでたどたどしくメロディを重ねていく。
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