「飛び散ったガラス」の横に息絶えた人…事件か病死か。1600体の遺体と対面した元検視官が明かす「死の謎」を解く思考プロセス

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もしかしたら単に寝込んでいるだけかもしれませんが、体調が悪化し意識不明で倒れているなら命を助けられるかもしれません。

残念ながら死亡していたとしても、早ければ早いほど遺体の腐敗は防げます。安否確認は一刻を争うのです。

働いている人であれば「出勤してこない」など、勤務先からの通報もあります。通報するかどうかの判断には、日頃の勤務状況も影響するようです(しょっちゅう無断欠勤をしているなら、いつものことと捉えられてしまい、安否確認通報が遅れます)。

近年はリモート勤務も増えて会社も勤怠管理が難しくなっているようですが、安否確認ができるシステムを導入するなど、社員の健康や安全を守る必要がありそうです。

地域包括支援センターや市区町村からの通報もあります。関わっているお宅に訪問して反応がないならそのままにせず、せめて生きていることを確認してほしいと思います。そうしないと、数週間後や数カ月後に再訪し、腐敗した遺体に遭遇することになりかねません。

宅配サービスなどの新たな社会的意義

ありがたいのが、新聞配達や宅配サービスなどによる異変察知です。

数日前から新聞が取り込まれていない、昨日配達した弁当がそのままになっている、というのは十分な異変なのです。こうした業者による通報により、瀕死の状態で倒れていた人を救命できた話も聞きます。

宅配サービスなどの新たな社会的意義を感じます。

『検視官の現場-遺体が語る多死社会・日本のリアル』
『検視官の現場-遺体が語る多死社会・日本のリアル』(中央新書ラクレ)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

むしろ安否確認が遅れるのは、アパートなど集合住宅のオーナーや管理会社のようです。

それも仕方がない面があり、毎日見守りをしているわけではないし、家賃や管理費の支払いが口座振替であれば、数カ月前に賃借人が部屋の中で死亡していたとしても業務上の支障はないわけです。

そうは言っても、郵便受けにチラシや郵送物が溜まっていたり電気や水道が止められて、外見からでもなんとなく廃墟のようになっていきます。

しかし、日中にあまり人がいないベッドタウンや転出入の激しい地域などでは近隣住民も周囲への関心が薄く、なかなか通報されません。

時折、遺体が腐敗し始めて集合住宅の居住者から異臭の訴えがあり、下水管を点検してみたものの異常がなく、さらに時間が経過し、異臭騒ぎの数カ月後に遺体が発見されるケースもありますが、その頃には腐敗が進み一部白骨になっていたりします。

山形 真紀 立教大学社会デザイン研究所研究員

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やまがた まき / Maki Yamagata

1972年生まれ。95年立教大学法学部卒業後、民間企業勤務を経て96年より埼玉県警察に奉職。生活安全部、警察学校などを経て、2021年から24年まで刑事部捜査第一課に配属。検視官として約1600体の遺体の検視に従事し、多数遺体対応訓練や東京五輪テロ対策(検視)に携わる。23年立教大学大学院社会デザイン研究科修士課程を修了。25年3月に警察を退職。現在は認定NPO法人難民を助ける会(AAR Japan)で災害支援業務に従事するとともに、立教大学社会デザイン研究所に所属し「大規模災害における多数遺体の処置、遺体管理」などをテーマに調査研究を進めている。

写真©Yoshifumi Kawabata/AAR Japan

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