ニューヨークの死体調査官が目撃した悲惨な現場 「死体と話す NY死体調査官が見た5000の死」
シリアルキラー、孤独死、自殺、そして9・11——…アメリカで起こった数々の凶悪事件に立ち会った著者ならではの克明な記録『死体と話す NY死体調査官が見た5000の死』より、第11章「殺す者と殺される者」全文を特別に公開。
「殺す者と殺される者」
1997年9月、わたしはイースト・ハーレムにある公営住宅団地〈ジョージ・ワシントン・ハウス〉へ向かった。季節は夏から秋へと移り変わろうとしていて、その日の午後の気温は24度で、さわやかな天気だった。ちょうど自然死の案件を終えたところで、これから調査しようとしている事件についてほとんど何も知らなかった──知っていたのは、建物の最上階の階段の踊り場で火事が起きたと、住人が911に通報したことだけだった。現場に駆けつけた消防士のフレッド・ジヴィニスが火を消したのだが、最初はゴミが燃えたのだと思ったという。
ミスター・ウエルズの車で現場に向かい、消防車の近くに車を停めた。それからゴミが散乱する小道を歩いて目指す住所に到着した。現場となった建物は、公営住宅団地を形成する、同じような建物が立ち並ぶ迷宮のような敷地の中にあった。管理人の呼び鈴を鳴らして、入口のドアにあるオートロックの番号を適当に押したあと、ロックが壊れていることに気づいた。ミスター・ウエルズが腕でわたしを後ろに押しやり、ドアを開けた。
「待った。先にわたしが中を見よう」
彼は、弱者をねらう強盗が潜んでいるのではないかと警戒しながら、緑のタイルが敷かれた薄暗いロビーをのぞきこんだ。あたりを見まわしてから、わたしに中に入るよう促した。
わたしは彼の目を見た。「ありがとう、ミスター・ウエルズ」。彼はうなずいた。
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