ニューヨークの死体調査官が目撃した悲惨な現場 「死体と話す NY死体調査官が見た5000の死」

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「なあ、バーバラ」。刑事は咳払いしてから口を開いた。「この仕打ちを受けた時にこの子は生きてたのかな?」。彼はそう質問したが、その答えは知らない方がいいのかもしれない。

「いくつかの火傷は死後のものね」とわたしは言った。「でも鼻の穴と口の中に煤がある。おそらく呼吸をしてたんでしょう。詳しいことは明日の検死でわかるでしょうね」

「本物のクズ野郎だよ、こんなことをする奴は」と巡査が声をひそめてつぶやいた。

生きた人間の身体が負傷または火傷すると、生活反応が見られる。血液やリンパ液が傷ついた部位にどっと流れて、紅斑、腫れ、水疱、出血、炎症などが起きる。死んでいる人も火傷を負うが、身体の防御機能は反応しない。死後に負った火傷は外見も異なり、黄褐色で革のような質感をしている場合が多い。身体が燃えている間に呼吸をすると、鼻の穴か口から煤が入り込んで喉頭や気管や肺にまで流れ込む。

レニーがスケッチブックを取り出して絵を描き始めたが、メトロポリタン美術館にいる美大生みたいでちょっと不釣り合いに見えた。鑑識班は証拠書類のために写真を撮るだけでなく、現場のスケッチを描き、室内にあるものの配置をメモする。署に戻ると、彼らは実寸に基づいて絵を完成させる。こうすると絵を見た人は状況を把握しやすくなり、現場写真への理解が深まり、陪審員が事件を頭の中で再現するのに役立つ。

あまりに無慈悲な行為

鑑識班が現場を測定することになり、わたしたちは移動しなければならなくなった。

わたしは数人の警官と一緒に屋上へ出た。

「シフトが終わったらみんなで飲みに行くんです」と警官の一人が言った。「酒が必要になりそうですからね。先生も……先生も一緒に来ませんか」

わたしも行きたかった。心底から。どこかの薄暗いバーで彼らと一緒に過ごして、悪夢のような光景をすべて忘れたかった。飲みたかったからではない。わたしと同じものを目撃した人たちと一緒にいたかったのだ。目にしたばかりの一種の邪悪な行為……非人道的な残酷さ、人間性を裏切る行為。あまりに無慈悲な行為だった。警官たちと一緒にいるだけで気が休まるだろう。といっても、事件のことは話さないだろう。お互いをからかうか、「仕事」の愚痴を言うことの方が多かったのだ。

「うちの部署で一番頭のいい男だけど、それを真っ先に周囲にひけらかすんだよな」

「ふざけやがって。内務局では働かないぞ。卑劣な連中だ」

「で、そのポン引きがガールフレンドの写真を見せてくれたんだ。それがさフィル、神に誓って言うけど、その子はきみがジミーのパーティに連れて来た子にそっくりだったんだよ。きみはまだあの子と付き合ってるのか?」

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