5000人以上の遺体と向き合った死体調査官の記録 「死体と話す NY死体調査官が見た5000の死」
シリアルキラー、孤独死、自殺、そして9・11——…アメリカで起こった数々の凶悪事件に立ち会った著者ならではの克明な記録『死体と話す NY死体調査官が見た5000の死』より、第11章「殺す者と殺される者」全文を特別に公開。
やり手の弁護士
裁判所に到着すると、キーの弁護人がわたしの知り合いの嫌な男だとわかって失望した。刑事弁護人のジョージ・ゴルツァーはやり手の弁護士だった。そのことは過去の苦い経験から学んだ。1998年にコーリー・アーサーがブロンクスの学校教師ジョナサン・レヴィンを殺害した罪で起訴された裁判で、ゴルツァーは証言台に立ったわたしをぼろくそに批判したのだ。
レヴィンはタイム・ワーナー社のCEOジェラルド・レヴィンの息子で、放課後に生徒をサポートし、卒業後も何かと面倒を見るようなやさしい人だった。コーリー・アーサーも彼に助けられた生徒の一人だ。ある日彼は、アドバイスを求めて友人と一緒にレヴィンのアパートメントを訪れた。ところが先生の親切に対するお返しとして、アーサーらは彼をステーキナイフで何度も刺したあと、銀行の暗証番号を聞き出して銃で撃ち殺した。たった800ドルのために。全国の主要メディアはこぞってレヴィンの殺害事件を報道した──これは正しかった。対して、ジョハリス・カストロの殺害事件はまったく報道されなかった──これは間違っていた。
レヴィン殺害事件の法廷で、直接尋問の際にわたしは、コーリー・アーサーの手のひらにあった切り傷について説明した。警察に逮捕された時に撮影された彼の手のひらには、長い切創と短い切創が断続的についていたのだ。ステーキナイフのようなギザギザのナイフで切られたみたいに。傷跡からは刃の方向性も読み取れた。ナイフの刃が手のひらから親指の方向へと入ったことがわかる。アーサーがナイフをレヴィンの身体に振り下ろした時に、骨か何か硬いものにナイフが当たり、刃が手のひらをなぞって切創がついたのだろうとわたしは説明した(『ニューヨーク・タイムズ』紙に、わたしが陪審員の前でその動作をデモンストレーションしている法廷画が掲載されたが、まるでわたしが精神錯乱した殺人鬼みたいに見えた)。
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