5000人以上の遺体と向き合った死体調査官の記録 「死体と話す NY死体調査官が見た5000の死」
わたしは写真を指差して、陪審員に説明した。「この輪郭から、彼女が壁にもたれかかり、頭は肩の方向に傾いていたことがわかります。炎に包まれて身体が焼かれた時に意識があれば、耐えがたい痛みと苦痛でじっとしてはいられなかったでしょう。壁に寄りかかって座っていなかったはずです」。局長から教わったとおり、わたしは質問を聞き、少し間を置き、それから陪審員に向かって話した。陪審員たちに、被害者の鼻と喉に煤がついていたことを話し、それはつまり火がついた時に彼女が呼吸していたことを示すと説明した。検察官は、わたしが気づいたことを陪審員に説明するのに必要な時間を与えてくれた。
次はゴルツァーがわたしに反対尋問をする番だ。
「ミス・ブッチャー。ジヴィニス消防士は、今日、火を消したのは自分だと証言しました。消防士がホースと水で消火した際に、壁についていた煤を洗い流したために、ミス・カストロの遺体の形をした輪郭が残ったのではないでしょうか?」
わたしは彼の質問に耳を傾け、少し考えてから、陪審員に話しかけた。「オーブンの中か、薪ストーブのガラス扉を掃除したことがある人なら、煤が油っこくて、水では簡単に落ちないことがわかると思います。煤を落とすのは容易ではなく、強力な洗剤が必要です。それから消防士はホースを使ったのですか。それとも、小火だとわかって消火器で消したのでしょうか。わたしは知りませんので、消防士に訊いてください」。わたしが話している間、何人かの陪審員は同意するようにうなずいていた。オーブンの掃除をしたことがあるに違いない。
するとゴルツァーは、煤が遺体から出たものだと証明できるのかとわたしに尋ねた。「この輪郭のようなものは、身体以外の何かからついた可能性はありますか?」
「その可能性は低いと思います」
「でも可能性はあるんでしょう?」
「ええ、可能性はあります」
彼は質問の範囲を広げて、遺体の大きさと軽量ブロックの大きさを比べてくれと要求してきた。そんなことをしても無意味だったが、その時点で彼は何かをしようと必死だった。わたしは軽量ブロックの平均的な大きさを知らなかったし、知らないことを証言するわけにはいかない。キーは無感情な眼差しでわたしをじっと見ていた。
「ミス・ブッチャー」とゴルツァーが言った。陪審員にわたしが医師ではないことを印象づけるために、彼は毎回「ミス」を強調した。「現場に到着した時に炭化水素系の燃焼促進剤のにおいがしたとおっしゃいましたね? そこでお聞きしますが、あなたはにおいの専門家ですか?」
「いいえ」。わたしはそう答えたあと、再び陪審員に顔を向けた。「でも、自分でガソリンを入れてますから」。数人の陪審員が笑みを浮かべた。
その後も何度かやりとりしたが、ゴルツァーは何とかして、ジョハリス・カストロが自ら火をつけて焼身自殺をはかったとほのめかそうとした。わたしは冷静で礼儀正しく、プロフェッショナルな態度を維持して陪審員に事実を話した。生活反応、煤がたまっていたこと、火傷によるアーティファクトなど、陪審員が正しい判断を下すのに必要な情報をすべて説明した。
ゴルツァーはDNAのサンプルが違法に採取されたものだと認めてもらおうと全力を尽くした。「警官が一般市民のあとをつけまわし、本人に警告することも、裁判所の承認を得ることもなく、体液を採取したことがわかったんですよ。このことを一般市民のみなさんは意識しておく必要があります」と彼は主張した。鋭い試みだったが、スドルニック裁判官はその主張を受け入れなかった。彼女は、証拠は合法的に採取されたと判断した。
キーに下された判決
キーはすべての容疑で有罪判決を下され、殺人事件に対する三回の終身刑に加えて、レイプ事件に対する400年の服役を言い渡された。わたしは陪審員の評決に安堵し、裁判官の判決に喜んだ。これでキーは二度と外を自由に歩きまわれないだろう。とはいえ、このモンスターと出会った少女たちを思うと、いまだに怒りがこみ上げてくる。ジョハリス、ラシーダ、パオラ、その他の被害者に起きたことは元には戻せないのだ。
裁判のあとも、ジョハリス・カストロは長い間わたしの頭から離れなかった。あのハンサムな男が自分のことを愛していない、ただ自分を傷つけたい、利用したいだけだと気づいた時、彼女は何を思ったのだろうか? 無力になって自分を救うこともできないと悟った瞬間は、どのようなものなのだろうか? 恐怖と激痛に支配される直前、信じていた人に裏切られた悲しみと絶望感でいっぱいになったのではないだろうか。
安らかに眠れ、ジョハリス。
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