「飛び散ったガラス」の横に息絶えた人…事件か病死か。1600体の遺体と対面した元検視官が明かす「死の謎」を解く思考プロセス

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一見したところ、体の表面では少し腫れているたんこぶのような腫脹(しゅちょう:炎症などにより腫れていること)程度でも、実は内臓を損傷するほどの大怪我という可能性もあります。検視の際に体に損傷があると捜査すべきことが多くなります。

死体所見や現場の状況からは、「死者は居間で体調が悪くなって、立ち上がって台所に行こうとしたところ、居間と台所を仕切るガラス引き戸に膝から突っ込んでガラスを割ってしまった。何とかこの引き戸を開けて、飛び散ったガラス片を踏みながら台所に入ったものの、テーブルを押し退(の)けながら倒れ込み、そのまま亡くなってしまった。この時に押し退けたテーブルが大きく東方に動いたため、台所東側のガラス引き戸に当たり、ガラスが割れた」という推測ができました。

床や足裏の血液の付着状況、ガラス引き戸の割れている箇所、膝やテーブルの高さ、割れたガラス片などを確認したところ、矛盾はなさそうです。その後、環境捜査などを進めた結果、事件性はなく病死であることが判明しました。

検視官は、現場の状況や遺体の姿勢、そして損傷などにも頭を悩ませつつ、事件性の有無を判断しています。たとえ病死であっても、死者は何らかの謎を残していることが多く、その謎を解かなければならないのです。

その謎を解くことが検視の醍醐味でもあり、プレッシャーでもあるのです。

安否がわからないときは通報を

警察や消防には1日に何件も安否確認の通報が入り、変死事案につながることも少なくありません。

安否確認を通報するのは、多くが死者の親族です。

内容は、「日頃から独居の親を心配し連絡を取り合っているのだが、昨日から電話にもLINEにも反応がない」などはもちろん、軽い親戚付き合い程度でも、そういえば正月以来会っていない、とか、数年会っていないが久しぶりに連絡を取ろうとしたところ音信不通である、というようなケースもあります。

気になることがあれば早めに接触を試み、生存確認が取れないようなら、安否確認の通報をしてください。

また、近隣住民や友人などからの通報もよくあります。

むしろ、死者の生活状況を親族よりもよく知っている可能性が高く、安否確認で頼れるのは遠い親族より近くの他人と実感します。近隣住民からの通報で多いのは、「訪問したが反応がないものの、昼間から電気がついていて様子がおかしい」「郵便受けに新聞が溜まっている」「異臭がしてハエが飛んでいる」などでしょうか。

もし近隣宅の異変、例えば数日間電気がつきっぱなし、洗濯物が干しっぱなしというような事態に気づいたら、いきなり他人の家に入らず(状況にもよりますが、トラブルに巻き込まれたり住居侵入罪に問われることがあります)、すぐに通報してほしいと思います。

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