「飛び散ったガラス」の横に息絶えた人…事件か病死か。1600体の遺体と対面した元検視官が明かす「死の謎」を解く思考プロセス

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どうやら、ガラスが割れている状況が争った形跡にも見える、つまり、事件性があるのかもしれないということのようです。

事件であれば、早急に現場を保存して鑑識を呼んで写真撮影し、指紋や微物などを採取するとともに、大量の捜査員を動員し初動捜査を進めなければなりません。

そうなれば一刻を争うのですが、一見してよくわからない状況というのは一番困ります。検視責任者も事件か否か判断しかねて相談をしてきたようです。

「すぐ行くから待ってて」。できるだけ早くこの現場に向かうことにしました。

私たちは到着すると、すぐに現場の状況を見て、遺体の位置などを確認しました。検視責任者からもう少し話を聞くと、他の部屋も含め室内が荒らされたり貴重品などがなくなったりしている状況はないとのこと。付近で待機していた家族によると、死者は妻が亡くなってから一人暮らしであり、最近体調が悪かったようです。

謎を解くことが検視の醍醐味

遺体は、居間の北側にある台所にうつ伏せで倒れていました。

居間と台所の間はガラスが嵌(は)め込まれた引き戸で仕切られていますが、片側の引き戸が少し開かれ、引き戸のガラスの下のほうが割れています。

ガラス引き戸と東側で直角に接する台所の壁もガラス引き戸になっていますが、こちらも腰の高さ付近が割れています。そしてこちらのガラス引き戸のすぐ脇でダイニングテーブルが斜めに大きく動いており、テーブルの西側に死者は倒れていました。

遺体の足裏を見ると、割れたガラスを踏んだような浅い傷が複数あり、膝にも少し暗紫赤色の皮膚変色があります。痣(あざ)であれば生活反応(損傷を受けた際に生きている状態でのみ起こる反応)です。それ以外の損傷はないようです。

損傷とはつまりは怪我のことです。

損傷の種類としては、机の角にぶつけたり棒で叩かれたりして生じた痣などの「皮下出血」(鈍体で打撲あるいは圧迫されて形成。ただし検視の段階では「皮膚変色」であり、解剖で出血を確認して確定診断されたものが皮下出血)や、転んで擦りむけた擦り傷などの「表皮剥脱(ひょうひはくだつ)」(作用面の粗い鈍体で擦過されるなどして形成)、鋭利な刃物による切り傷などの「切創(せっそう)」(有刃器の刃などを長軸方向に引くなどして形成)、転倒や打撲などの外力で皮膚が裂け、出血を伴う開放性の傷である「挫創(ざそう)」(鈍体による打撲に基づく組織の破綻により形成)などがあります(高津光洋『検死ハンドブック』)。

これらの損傷が頭部や頸部、そして胸腹部にあると、状況によっては死に至ることがあるため、死因に大きく影響します。また、体幹部ではない腕や脚の損傷であっても、その経過によっては死に至ることもあります。

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