日本銀行に在籍時、強烈な教訓として記憶している事があります。1971年に起きた「二つのニクソンショック」です。国際通貨基金(IMF)に出向し、米ワシントンで働いていた時期です。
一つ目の「ニクソンショック」は電撃的な米中和解。ニクソン大統領がテレビ演説で、翌年2月の中国訪問を発表しました。それまで米中両国は敵対関係にありました。このため、日本は米国に遠慮し、対中外交に消極的。突然の「頭越し外交」には非常に驚きました。
大学では中国語を専攻し中国にも強い関心を寄せていましたが、見ていたのは日米関係と日中関係で、米中関係はおろそかにしていました。交渉ではバイラテラル(1対1)だけでなくマルチラテラル(多国間)な関係も意識しなければならない、と痛感させられた出来事でした。
中国は大きく振れる国家
もう一つの「ニクソンショック」もしかり。ニクソン大統領が発表したドルと金の交換停止は「多角的通貨調整」を意味し、単に円とドルの関係だけではなかったのです。物事を多角的にとらえること。これが国際社会の現場で学んだ教訓です。
72年にワシントンから東京へ戻ると、息つく間もなく北京へ転勤。文化大革命のさなかで、重苦しい雰囲気の時代。街行く人は人民服か、解放軍の制服を着ていました。
その後、79年から81年にかけて香港に勤務。ちょうど中国が改革・開放路線へ大きく舵を切り始めたころです。「改革」とは市場経済への移行。「開放」は開国を意味します。でも、中国が掲げる「社会主義市場経済」という言葉は、そもそも論理的に矛盾していますよね。社会主義の枠組みだと、所有形態は国有あるいは公有であり、生産や分配は計画経済の下で行われるものですから。
もっとも、中国はそんなことにこだわっていないのではないでしょうか。「チャイナウォッチャー」としてはなかなかついていけない面もありますが、中国は大きく振れる国家だということを実感しているので、驚きはしません。
振り返ると、精神主義が幅を利かせていた文革の時代は無理があった。現実を直視し、市場経済化へと突き進んでいる今のほうがむしろ、自然という気がします。
2000年の間に、中国は大きく振れた。今だってそう。実に中国らしいですね。違和感などまったくありません。「向こう側の動きに惑わされて一喜一憂しない」。中国とはそういう気持ちで付き合ったほうがいいと思います。
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