「おやじに会ってきたよ」「どこのおやじ?」 女優・浜木綿子(90歳)が、息子・香川照之から《元夫・市川猿翁との再会》を知らされた日の衝撃
後日、放送された映像を見た。
「武将の役なので馬にも乗っているし、ちゃんとやっているからちょっと感心しました」
照之はテレビ、映画など映像の世界で実績を積み出した。浜は照之の出演作品は、テレビも映画も欠かさず目を通した。
再び照之が、その行動力で浜を驚かせたのは1991年2月13日のこと。ひとりで静岡県沼津市の巡業先の楽屋に市川猿之助(二代猿翁)を訪ねたのだ。
「その日は、自宅に私も母も妹もいました。帰ってきた照之は『おやじに会ってきたよ』と切り出しました。思わず、『どこのおやじ?』と問い返すと、『僕のおやじだよ』『えっ、猿之助さん?』。母が『おばあちゃんによろしくと言っていたかい?』と尋ねると、照之は『それどころじゃなかったよ』と答えました。『どうしたの?』と聞いても、『いや、大変だったよ』と言うばかり。私たちも、あえてそれ以上は聞こうとしませんでした」
後日、照之から、「(四代市川)段四郎さんだけが『よくわかるよ。君の気持ちは』と言って抱きしめてくれ、二人で泣いた」と聞かされた。
「段四郎さんは、照之の中車襲名後もずっと優しい言葉をかけてくださいました。亡くなられた時は悲しかったです。本当に残念でした」
段四郎は三代段四郎の次男で、二代猿翁の弟。1946年生まれで、大きな舞台ぶりの立役として、「勧進帳」の弁慶、「神霊矢口渡」の頓兵衛などに存在感を示した。闘病の後、2023年に76歳で他界した。
「あなたは息子ではありません」
照之が父と対面した折の心境を、「婦人公論」(1991年8月号)に発表した手記から引用しよう。
「彼がいなかったら、ぼくがこの世に誕生してこなかったことは紛れもない事実なのだ。ぼくはただそんな種類の強い意志に突き動かされて、沼津の公演先まで父を訪ねたのだった。(中略)彼と会った30分間、実際ぼくはただべーべー泣き、父は実に多くのことを語った」



















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