「フランスはもうフランスでなくなった…」 ルーヴル盗難事件が映す外国人問題の先行事例《引き返せない地点》のリアル
INSEEの職業別データでも、移民は相対的にブルーカラーが多く、対人サービスや現場作業など自動化が難しい職業に従事している。さらに、移民=単純労働ではなく、高度スキル人材が増えているという実態もある。
そのため、現在ではフランスに在住する移民労働者に対するリスキリング(学び直し)が奨励されており、AI化・ロボット化の進展を移民排斥の根拠とする説得力が弱まっている。
移民同化政策の可否を左右する要素
筆者がフランスやほかの欧州諸国で取材した経験から言えるのは、移民同化政策はキリスト教の価値観を共有する外国人の間では可能性がある一方、イスラム教徒、ヒンズー教徒、ユダヤ教徒など、非キリスト教系移民には適応が難しいということだ。
私が取材したモロッコ系、アルジェリア系、チュニジア系移民の家族は、フランス政府の同化政策にはまったく同意していない。彼らにとってイスラム教こそが世界観を規定しており、政府が要求するフランスの価値観は認めていない。そもそも、ライシテとイスラム教の教義がかみ合っていない。
フランスでは、憲法と関連法によって、民族、人種、出身を基に区別して統計を取ることが原則禁止されているため、正確な数字は公表されていない。だが、一部の報道によると、同国内には現在、アラブ系(モロッコ、アルジェリア、チュニジアなど)移民とその子孫が圧倒的に多いという。
同国内の成人(18~59歳)を対象にしたINSEEの調査によれば、19〜20年時点でムスリムと自認する人の割合は10%程度で、今後最大で18%まで増えるという専門家の予想もある。一方、同調査において「自分はカトリック」と答えた人は29%。ミサへの参加など信仰を実践している人は1割を切り、無宗教が51%だった。
増加を続けるムスリム勢力の中から、イスラム教を唯一の価値と信じ、イスラム国家建設を目指す群に分ける分離主義を唱える動きが数年前から出ている。キリスト教徒とイスラム教徒が拮抗するフランスの現状からすれば、ありえない主張とはいえない。
分離主義者は暴力を伴ったテロも正当化していることから、フランス国内のモスクで分離主義によって信者を扇動する言動を繰り返すイスラム指導者は国外追放処分を受けている。分離主義は軽犯罪などで収監されているアラブ系受刑者の間でも拡散していることから、分離主義を信奉する受刑者を独房に移し、影響を最小限に食い止める対策も講じられている。


















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