「フランスはもうフランスでなくなった…」 ルーヴル盗難事件が映す外国人問題の先行事例《引き返せない地点》のリアル

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寛容と人道主義を掲げる左派が移民受け入れや多文化共生に肯定的なのに対して、右派は総じて反移民の政策を支持している。

極右政党「再征服」は、強硬な対移民の治安・同化圧力を政策の中心に据えて躍進している。中道右派の共和党(LR)はこの10年で右傾化を強め、エマニュエル・マクロン大統領率いる中道政党「ルネッサンス」も、RNやLRの賛同を得て2024年に公布された新移民関連法で、犯罪を犯した外国人の強制送還や移民手続き厳格化に踏み込んだ。

一方、急進左派の「不服従のフランス(LFI)」、共産党、緑の党や、中道左派の社会党は、移民政策で在留資格付与や権利保障、庇護手続きといった人道性重視の方針をとる。だが、政教分離(ライシテ)をイスラム系移民が軽視していることや治安に移民が悪影響を与えていることに関して、左派内でも対立が起きている。

移民なしでは国が立ち行かないというジレンマ

「人手不足を補うための移民」という考え方は、10%前後の高い失業率が長年続いたことに対する解決策にはなっておらず、右派でも左派でも議論が白熱している。

フランスは00年代に入り、左派のリオネル・ジョスパン政権時代に治安が極端に悪化した。その原因として移民の存在が指摘されたため、次に登場した中道右派のニコラ・サルコジ政権は右寄りの政策に大きく旋回。イスラム女性のスカーフ着用を公的な場で禁じる政策が法制化され、移民受け入れのハードルも引き上げられた。

この頃、不況にあえいでいたフランスは、社会保障財源を抑えるため、アメリカ型の資本主義や「小さな政府」を志向する方向に舵を切った。だが、そこにリーマンショックが襲いかかる。サルコジ大統領は効果的な対策を打てず、左派のフランソワ・オランド氏に政権を奪われた。

オランド政権は巨額の財政赤字を抱えながらも社会主義的な政策を優先。このとき、移民問題や貧富の差を解決するために公営低家賃住宅を高級住宅地に建設したことで、アラブ系と白人系の対立が再燃した。

最近では、一部の保守系経済紙で「AI(人工知能)の導入や労働のロボット化が進めば、単純な反復作業の単純労働を支える低技能の外国人労働者の受け入れは不要になる」との主張が散見されるようになった。ただ、清掃、介護、建設、飲食などの職場では代替できないとの指摘もある。

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