「フランスはもうフランスでなくなった…」 ルーヴル盗難事件が映す外国人問題の先行事例《引き返せない地点》のリアル
フランスでは、外国出生者で外国籍のままフランスに住む場合もフランス国籍を取得した場合も「移民」と位置づけており、外国からフランスに移民し国籍取得した家庭で生まれ育った人間を「フランス人」として区別している。
パリ首都圏の移民比率は全国トップの20.7%(全国は10~11%、2025年10月)。県別ではセーヌ・サン・ドニ県が31%超で最高水準だ。パリ首都圏の8県はすべて全国トップ10に入っている。国立統計経済研究所(INSEE)によると、パリ居住者の4人に1人が海外出生とされ、北アフリカ系が28%を占めている。
昔からヨーロッパ内では移民が存在し、19世紀のフランスではイタリア移民が多かった。歌手のイヴ・モンタン氏もイタリア系だ。フランスでは「先祖3代さかのぼれば、3割はほかのヨーロッパ諸国からの移民」とされている。
ヨーロッパには、スラブ系、ゲルマン系、ラテン系、アングロ・サクソン系と、幅広い人種や民族が移動を繰り返してきた長い歴史がある。一方で、彼ら白人移民が深刻な社会的問題を起こした例は少ない。ナチスドイツを逃れて、ほかのヨーロッパ諸国に住みついたユダヤ人も多く、フランスにはヨーロッパ最大となる約50万人のユダヤ人コミュニティーが存在する。
こうした歴史をもつフランスで近年、移民が問題視されているのは、非ヨーロッパ系移民が治安を乱しているという懸念があるからだ。
フランスの移民問題は「引き返せない地点」に達した
筆者も、1990年代前半にフランスに移住したばかりの頃は、自国の許容量を超えた移民受け入れに批判的感情を抱いた。当時、食事を共にした極右・国民戦線(現・国民連合、RN)の創設者、ジャン=マリー・ルペン氏が口にした「アフリカからフランスに学びに来るのは構わないが、どうして教育を受けた後、自分の国に帰って貢献しようとしないのか。愛国心はないのか」という問題提起に、至極納得させられた記憶がある。
30年前と今を比べると中身に変化はあるが、移民問題とそれに関連した治安・失業問題は今も政治の優先課題である。肌感覚としては、30年前は社会の隅でひっそり暮らしていた移民が、今では大手を振って歩いている印象だ。日ごろは薬物売買や窃盗、スリで生計を立てる不良の若いアラブ系移民がルーヴルを襲ったとすれば、それは移民問題が引き返せない地点に差しかかっていることを意味する。
パリ在住だった友人夫妻は移民の多さを嫌って、別荘として使っていた、移民の少ないフランス西部ブルターニュ地方のヴァンヌの家に引っ越した。移民の急増をきっかけに、過去には左派支持者だったフランス人が右派支持者になっている例も少なくない。彼らを突き動かしたのは「フランスがフランスでなくなった」という現実だ。


















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