「サイコパス」は先天的なものか、あるいは後天的なものか? 脳の研究から明らかになってきた「サイコパスの正体」

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私たち人間の世界は、何をするにしても、基本的には他者との信頼関係がとても重要です。サイコパスのようにウソばかりついていると、距離を置かれてしまいますし、中長期的には他者からの信用を失うのは得策ではありません。

普通にふるまっている限り、相手は正直にやってくれているはず、ということが資本主義経済や今の社会の前提にもなっているでしょう。

ただ、ちょっとズルをしたり、ウソをついたりする人は少なからずいるもので、それをどうするかという問題があります。

最近、企業で不正行為が起きた後に、専門家として意見を求められることがあります。もちろん、組織風土によって起きていることが違うので、一概には言えませんが、心理学の観点からは、不正を防止する際に個人の意志の力に頼るのは非常に難しいものですよとお伝えしています。

よく、研修やeラーニングなどで、不正をしないように意識を高め、教育しようとするわけですが、意味が全くないわけではないものの、やはり、それだけではウソをつくのをやめさせたり、不正を防いだりする効果はとても少ないのです。とりわけ、サイコパスでは難しいことも、想像に難くないでしょう。

不正ができない制度、仕組みが重要

ではどうすればいいのか。例えば、業務の中で不正ができないように電子システムを導入する、あるいは効果的なタイミングで監査を実施するなど、制度や仕組みを工夫することで、不正ができる機会や状況を減らす、ということが考えられます。

また、テクノロジーの観点からは、AIを使うことも考えられます。例えば大企業では、経費の請求は1日に何百件、何千件と行われていますが、そのデータをAIで見ていくと、不自然な偏りを見つけられることがあり、実際にそういったサービスを提供している企業もあります。

個人のトレーニングや意識改革と同時に、制度やルールを工夫することで不正の機会を減らし、先端的な技術も駆使して不正を早期に検出して防ぐというやり方、これらを状況や環境に合わせてコンビネーションで使っていくことが重要だろうと思います。

ただ、それでもウソや不正をゼロにすることはできず、イタチごっこになるものだとは思います。

サイコパスは、不正や犯罪に直接関わってしまうものですし、特にお子さんの場合、非行につながる話でもあります。しかし、通常の病気とは違って、自分で困って病院を受診する、といったことはありません。社会的な対処の方法がとても難しいく、その意味でも、サイコパスに関する研究の必要性は高いと感じています。

(構成:泉美木蘭)

阿部 修士 京都大学人と社会の未来研究院教授

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あべ のぶひと / Nobuhito Abe

専門は認知神経科学。健常被験者を対象とした脳機能画像研究と、脳損傷患者を対象とした神経心理学的研究を行っており、主にヒトの正直さ・不正直さを生み出す脳のメカニズムについての研究を進めている。東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻博士後期課程修了。博士(障害科学)。東北大学大学院医学系研究科助教、ハーバード大学心理学科/日本学術振興会海外特別研究員、京都大学こころの未来研究センター准教授などを経て、2024年より現職。2015年日本心理学会国際賞奨励賞を受賞。著書に『あなたはこうしてウソをつく』(岩波科学ライブラリー)、『意思決定の心理学:脳とこころの傾向と対策』(講談社選書メチエ)ほか。

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