ロックスターの「心の影」を赤裸々に描く映画の衝撃!《ブルース・スプリングスティーン》の"絶頂と絶望"に迫る「アカデミー賞期待作」を解説

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ホワイト
主演ジェレミー・アレン・ホワイトの演技が光った©2025 20th Century Studios

主演のスプリングスティーンを演じるのは、製作陣から「彼以外にこの役を演じられる人物は考えられなかった」と絶大なる信頼を寄せられるジェレミー・アレン・ホワイト。

「彼は強烈さ、傷つきやすさ、そして真実性を兼ね備えた魅力的な人間だ」と語るクーパー監督も、「ブルースの妻であるパティ・シアルファもジェレミーを見て『わたしがはじめて出会ったころのブルースにそっくり』と語るほどにブルースと共通する資質を持っていた。彼はその場にいるだけで、その存在感を自然にかもし出していた」と語る。

政治利用もされた「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」

余談だが、日本人にとってのブルース・スプリングスティーンといえば、「ネブラスカ」の次に発表された「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」の印象が強い人も多いかもしれない。だがそのアルバムのタイトル曲は実は“ロック史上最も誤解された名曲”とも呼ばれている。

ベトナム戦争やウォーターゲート事件などで、希望を失ったアメリカに戻ったベトナム帰還兵の疎外感、苦悩を歌いあげたこのプロテストソングを、愛国心あふれる曲だと勘違いしたロナルド・レーガン大統領が無断で選挙キャンペーンに使用し、失笑を買ったことがあった。

だが、後にドナルド・トランプも自身の集会で「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」を無断使用するなど、歴史は繰り返す。だがスプリングスティーン自身はトランプの姿勢を公然と批判し、後にトランプ自身も彼との対決姿勢を明確にしている。

フェイ
オデッサ・ヤングが演じた恋人のフェイは、当時スプリングスティーンの人生に関わっていた人たちを精神的に融合させたキャラクターとなる©2025 20th Century Studios

それはさておき、本作の劇中にも「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」のレコーディング風景が映し出されている。

アコースティックスタイルの「ネブラスカ」とエレクトリックスタイルの「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」。あまりにも対極のスタイルを持つ両アルバムだが、実は「ネブラスカ」と「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」の前半部分は同時期に録音されているのだ。

スプリングスティーンによると、一時は両アルバムを二枚組にして売りだそうと考えたこともあったというが、「ネブラスカ」の特異性、唯一無二の世界観の前ではそれは不可能だった。それはなぜなのか、その理由は本作を観れば納得できる。

【もっと読む】エリート街道の兄と学歴なしの弟…2人の運命が「音楽」を通して動き出す!《セザール賞・主要7部門ノミネート》のフランス映画の凄さ では、映画ライターの壬生智裕氏が、フランス映画『ファンファーレ!ふたつの音』の凄さについて詳細に解説している。
壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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