ロックスターの「心の影」を赤裸々に描く映画の衝撃!《ブルース・スプリングスティーン》の"絶頂と絶望"に迫る「アカデミー賞期待作」を解説

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だが「Deliver Me from Nowhere~」の著者ゼインズは、「そこが知りたいところだった」という思いで、スプリングスティーンの自宅に行き、「ネブラスカ」を制作していた困難な時期について彼から話を聞く機会を設けることとなる。

かくして「Deliver Me from Nowhere~」は出版されることに。そしてこの本を読んだ本作のプロデューサー陣は、アルバム制作の裏にあった、うつの症状や未解決のトラウマに苦しむアーティストの心理を掘り下げた内容に、多くの映画的可能性を感じたという。

監督自身もスプリングスティーンのファンだった

そして、そんな「ネブラスカ」の魂を理解し、そして人間に対する理解を備えた監督といえば、主演のジェフ・ブリッジスにオスカーをもたらした音楽映画『クレイジー・ハート』を手がけたスコット・クーパーしかいないと確信を抱いた。

そんなプロデューサー陣からのオファーを受けたクーパー監督だが、彼自身も長年のスプリングスティーンのファンであり、「ネブラスカ」に多大なる影響を受けてきたと公言する。「わたしは誕生から現在までを網羅する伝記映画には興味がなかった。もっと狭く、もっと親密に、しかし感情のスケールでは壮大なものを描きたかったのだ」。

脚本開発に関してはスプリングスティーン本人と、マネジャーのジョン・ランダウが全面協力。当時の詳細や心境などについて、スタッフやキャスト陣からの質問や相談にも献身的に協力してくれたという。

一方、いち映画ファンとして、『クレイジー・ハート』『ファーナス/訣別の朝』をはじめ、クーパー監督の映画はすべて観ていたというスプリングスティーンも「スコットは映画の中で音楽を扱う方法を知っているということは知っているし、彼がブルーカラーの生活を捉えることができ、その生活に対する真の感覚を持っていることも知っている」と全幅の信頼を寄せている。

そして長きにわたり、スプリングスティーンを支えたマネジャーのジョン・ランダウはクーパー監督にこう語ったという。「ブルースは、50年のキャリアの中ではじめて誰かに舵を託したんだ」。

クーパー監督は、自身の父親に捧げた本作を「自分の人生において特別な響きを持つ作品」であると語る。「父はクラシック音楽やオペラ、カントリーミュージックを教えてくれた。そして『ネブラスカ』を紹介してくれたのも父だった」。

そんな父が撮影初日の前日に亡くなった。さらに撮影も後半にさしかかったころには、山火事で自宅を失うという悲劇に見舞われた。だがそんなつらい時もスプリングスティーンは、クーパー監督の家族を彼の自宅に招き入れ、ギターを失った監督の娘に自身のギターを送るなど、大きな支えとなってくれたという。

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