ロックスターの「心の影」を赤裸々に描く映画の衝撃!《ブルース・スプリングスティーン》の"絶頂と絶望"に迫る「アカデミー賞期待作」を解説
そうやって完成した楽曲の数々は、不完全であるがゆえの美しさをたたえていたが、しかしどこまでも個人的で、内省的だった。そんな「ネブラスカ」の楽曲は、それまでの疾走感あふれるロックチューンを期待していた周囲のスタッフを戸惑わせる。
だがそれでも「ブルースにとって成功は複雑なことなんだ」と語るマネジャーのジョン・ランダウは彼を信じ、「ネブラスカ」を世に送り出すべくレコード会社と交渉するが――。

痛みを伴いながらも「ネブラスカ」を振り返った

本作の原作は、これまでトム・ペティの伝記本などを手がけてきた作家ウォーレン・ゼインズの著書「Deliver Me from Nowhere:The Making of Bruce Springsteen's Nebraska」。
それ以前にも、スプリングスティーンの自伝は「ボーン・トゥ・ラン : ブルース・スプリングスティーン自伝」(早川書房)のタイトルで出版されていたが、本人が7年かけてつづったという、上下巻たっぷりのボリュームの本の中でも、「ネブラスカ」の制作について触れられている箇所は、日本語の翻訳本だとたったの4ページしかない。
その時期について振り返ることは、スプリングスティーンにとって多大なる痛みを伴うこともあり、その期間のことに触れることに消極的だったということもあるだろう。
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