ロックスターの「心の影」を赤裸々に描く映画の衝撃!《ブルース・スプリングスティーン》の"絶頂と絶望"に迫る「アカデミー賞期待作」を解説
レコード会社の幹部からは「今ほど勢いのある時はない。このチャンスを逃すな」と次なるヒット曲を出すようプレッシャーがかかり、それほど親しくはなかった地元の知人からも「第2のエルヴィスだな」と街で声を掛けられるようになる。
成功の重圧に押しつぶされそうになった彼は、「あれこれ言ってくるプロデューサーやエンジニアがいない」という理由から、ニュージャージーの自室にひとりこもって、約9キログラムで持ち運び可能な、日本製の4トラックレコーダー「TEAC 144」を使い、デモテープをつくることにする。

苦悩の核心から曲を生む
そこで彼がインスパイアされたものとはなんなのか。
若きカップルが逃避行を続けながら連続殺人を引き起こすさまを描き出したテレンス・マリック監督の映画『バッドランズ BADLANDS』の静かなバイオレンス。作家フラナリー・オコナーのアメリカン・ゴシックな短篇集。そして幼い頃に父親と観たチャールズ・ロートン監督の映画『狩人の夜』が映し出す子どもたちの視点。恋人フェイとの時間。そして幼き日の母との記憶。確執のあった父――。
キャリアの岐路に立っていた彼は、過去の記憶などをたぐり寄せ、想像力をふくらませ、心の中の深みにあった“何か”を掘り下げていく。苦悩の核心から生まれた曲は、やがてさらに多くの苦悩をもたらしたが、それをも丁寧に紡ぎ出していった。

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