クラフトチョコの旗手、日本上陸計画の内幕 チョコ界のサードウェーブがやって来る!

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日本への進出は米DANDELION CHOCOLATEと堀淵氏のジョイントベンチャーを通じて行う。出店数と売り上げを追いかけるのではなく、あくまで”質”の高さを追求しカルチャーとして根付かせることで企業価値を上げることで合意しているという

ではダンデライオンチョコレートの日本進出は、サードウェーブコーヒーの手法をそのまま踏襲するのか?というと「そうではない」と堀淵氏は否定する。

「ダイレクトトレードで質の高い豆を仕入れ、独自に浅く焙煎し、フレッシュな焙煎豆を48時間以内に各店舗に提供するために出店する地域にファクトリーを持つというのがブルーボトルの戦略でした。ダンデライオンも同じようにダイレクトトレードでカカオ豆を仕入れ、ファクトリーを併設し、そこで焙煎から薄皮剥き、カカオの練り加工などまでを行い、新鮮なカカオ豆の風味をカフェで提供するという点は確かに共通です。これは”クラフト的”であるための根幹を為す価値観です。その上で、シングルオリジン(単一産地)カカオ豆で作られたチョコレート製品の味の違いを楽しむこともできる。これもサードウェーブコーヒーと似ていると言えば、確かに似ています。しかし、これこそがサンフランシスコを中心としたベイエリアにおけるカルチャーそのもので、コーヒーだから、ワインだから、チョコレートだからとジャンルで異なるわけじゃないんですよ。トッドは本気でチョコレート業界に革命を起こそうとしています。ビジネスとしてのモチベーションは当然だけれども、むしろ、彼の“エモーショナルインベストメント”の方が結局は人々の心を動かしたのです。本質的なものをカルチャーとして根付かせることはものすごいエネルギーがいるし、多くの人を巻き込むんです」(堀淵氏)

アジアへの店舗展開も計画

蔵前でオープン予定のファクトリー併設カフェでは、チョコレートドリンクやチョコレートバー、チョコレート関連スイーツなどに加え、ワインやラム酒などとチョコレートを合わせた飲み方などを提案する。並行して通信販売を中心に外販、そしてファクトリーで作る高品質のチョコレート原料販売など業務用取引を推進する。次のステップとしての店舗展開は極限られた文化的な発信地となりうる場所を想定し、京都などアジアからの外国人観光客がやってきやすい場所にファクトリーショップを設置し、東京にはファクトリーを併設しないサテライトカフェを1店舗程度考えているだけだという。

「ブランド構築後に多店舗展開を進めて売上げを伸ばすという手法は、ある程度の店舗数まではうまく行きやすいのですが、一方で”純度の高いクラフト系ブランド”でそれをやると、ブランド価値があっという間に消費されてしまう危険もあります。”なぜクラフトなのか”を突きつめると、多店舗展開で売上げを伸ばすのではなく、”ダンデライオンなら間違いなく純度の高いカカオの風味を楽しめる”という部分を価値として守り続ける方が良い結果が得られます」(堀淵氏)。

チョコレートバーがコーヒーと決定的に異なるのは、風味を保存しやすいということだ。一度バーになれば、通信販売などで売りやすい。また純度の高い美味しいチョコレート原料を提供することで、業務用の原材料販売ビジネスも拡大していくことができる。ダンデライオンが見すえているのは、やはり2020年の東京オリンピックだ。インバウンド需要が増えていく2020年にかけて、日本のカルチャー発信地でダンデライオンチョコレートの名を確実なものにした上で、台湾、香港、シンガポール、クアラルンプールなどへの展開を見すえる。

もっとも、高品質とストイックな生産工程をダンデライオンの価値とするなら、いくら独自で焙煎機などさまざまな工程の道具を改良、開発したとしても、大手チョコレートメーカーがキャッチアップしてくる可能性はある。彼らの強みが、純粋にカカオ豆の味を引き出すことであるなら、突きつめれば”カカオ豆”そのものの品質、調達ルートこそがチョコレートメーカーの価値となるのではないか。こうした質問を堀淵氏に投げていたところ、後日、トッドからは次のようなメッセージが届いた。

「僕らは戦略的にカカオ豆の調達を行っていたわけではないけど、結果的にそれが競争力につながっている面はあると思う。カカオ豆そのものは貿易業者に頼めば、いろいろな国のものが手に入る。しかし、品質の違い、輸出前の事前処理の違いなど、仕入れや原産国で同じカカオ豆なのに、まったく違うチョコレートができる。そんな疑問を解消するために、マダガスカル、ベネズエラ、エクアドルなど、ほぼ全ての重要な生産国のカカオ農場に足を運んだんだ」

そこで彼が発見したのは、農家側のカカオ豆の扱いによってチョコレートの味が大きく変わることだ。取れたてのカカオ豆は食べられたものではないが、これを発酵させた後に乾燥させるとチョコレートの風味を放つようになる。この処理はカカオ農家側で行われているため、貧しい地域に広がるカカオ農家側に”美味しいチョコレートのためのカカオ豆の処理”を実践する組織的な動きがなかったという。

そこで、トッドはカカオ豆産地の農家を訪れて仕入れ契約をするだけでなく、どのように処理すれば、より美味しいチョコレートになるかを、各地の農家のひとたちと対話しながら探ったという。

そして、より良い生産方法を議論したり、発酵具合を調整する工夫をしたり、袋詰めをはじめとした品質管理などに応じてくれる農家に対して、大きなロットで安定したビジネスが行える価格での買い付け契約を結んだという。

「エコシステム全体の中で、生産者を含め”美味しいチョコレートを作ることができ、利益になった”という結果に対して報酬がフィードバックされるようにする仕組みにした。もちろん、検疫を含むロジスティクスも自社開発し、直接、安定した品質の原材料が自分たちの手元にやってくる。どれも、より良いチョコレートのためにやったことなんだけど、いつの間にか”フェアトレードの実践者”に自分たちがなっていたんだ」

とかくビジネスモデルや生産プロセスに注目があつまりやすいが、この高品質の原料調達ルートそのものが、ダンデライオンの価値なのかもしれない。 果たしてシリコンバレーIT業界の成功者が、さらなる高みを目指して、クラフトチョコレート市場を日本に生み出し、根付かせることができるのか。静かに進むダンデライオンの日本進出は、近日中に本格的なビジネスプランが発表される予定だ。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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