『TOKYO STYLE』の後も、都築さんは30冊以上の著作を世に送り出し、展覧会やメールマガジンの編集など、多彩な活動を続けてきた。スナックや演歌、アウトサイダー・アートまで、誰も光を当てなかった場所や人に向けられた視点は、独自のファンを生み、支持されている。
その根底にあるのは、”どこにでもある”と無視されたり“見栄えが悪い”と隠されたりしがちなものに宿る価値を、見抜く視点だ。
2025年に“普通”を記録すること
ひるがえって、2020年代の“普通”はどうなっているのか。私は2024年初夏から「だから、ひとり暮らし」の連載を始めた。取材して感じたのは、表面上の雑多さは確実に減っていること。モノのデジタル化や、コロナ禍を経た暮らしの変化、SNSの影響もあるのだろう。
「『TOKYO STYLE』はSNSが生まれる直前の姿。今の人から見たら牧歌的で、うらやましく感じるかもしれない」と取材時に都築さんは語っていた。
たしかに、連載開始当初は現代において『TOKYO STYLE』のような熱量のあるインタビュイーに出会えるのか懸念もあったし、私がその人たちの言葉からリアリティをすくい取れるのかという不安も抱いていた。
けれど取材でペアを組む写真家たちが切り取った風景には、その住人の体温や、積み重ねられた時間が確かに写っていた。整った暮らしのなかにも、キッチンや本棚、ベッドわきのスペースなどに人生は宿っていると感じた。
また、シャッター音を聞きながらじっくりと話を聞いてみると、毎回それぞれの人の心の奥底から、逡巡(しゅんじゅん)や希望を含んだ率直な言葉がこぼれてきた。時代が変わっても、内面のバリエーションの豊かさは失われていないのだと、実感したのだ。
他人に見られることを前提に自意識を高めた表現があふれる時代だからこそ、揺らぎや不完全さを含んだ“素の暮らし”を掘り起こし、言葉と写真で残すことに意義があるのではないか。そんな気づきが「だから、ひとり暮らし」という連載を続ける原動力となっている。


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