熱狂的なファンに愛される伝説の写真集『TOKYO STYLE』、著者・都築響一氏が語る「普通の暮らし」に宿る価値

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『TOKYO STYLE』
80年代から90年代初頭の“カワイイ”は、にぎやかで、てらいがなく感じられる。筆者所有の『TOKYO STYLE』京都書院版第1刷(写真:筆者撮影)

そういった見立てのもと、都築さんは本格的に「記録」として“普通の部屋”をまとめることを考えた。撮影のスタイルも、ただのスナップではない。建築雑誌やライフスタイル誌で紹介するのと同じく、狭い部屋もきちんと正面から撮影した。

都築さんは、若者たちの普通の暮らしを、単なる“狭い部屋”“散らかった部屋”としてネタ的に消費するのではなく、時代を映すリアルな風景として丁寧に記録し、ひとつの写真集にまとめたのだ。

『TOKYO STYLE』のページをめくると当時の空気が立ちのぼってくるのは、都築さんの「これは残すべき貴重な記録なのだ」という意気込みと、対象への敬意が伝わってくるからだ。

SNSでは発信者の「どう見せるか」という意識や計算が先立ちがちだが、『TOKYO STYLE』には暮らしをそのまま肯定し、愛おしむ都築さんならではの視点がある。そのまなざしがあるからこそ、時代を超えて読み継がれる記録になり、唯一無二の作品になっているのだ。

都築響一さん
都築さんは『TOKYO STYLE』以降も多数の著書を刊行し、展覧会やアートイベントの企画も手がける。週刊メールマガジン『ROADSIDERS' weekly』を主宰し、69歳となった今も現場に立ち続けている(撮影:今井 康一)

「誰が喜ぶの?」と言われながらつくった

ただし、この試みは最初から評価されたわけではない。「普通の人の部屋を真正面から記録する」企画を、確信を持って出版社に持ち込んだ都築さんだったが、当時返ってきたのは冷たい反応だった。

「どこの出版社にも理解されなくて。『そんな部屋を紹介して、誰が喜ぶの?』『見栄えが悪い』『夢がない』って、そういう声ばかりでした。仕方がないから自分でカメラを買って、2〜3年かけて撮りためて、出版社に無理やり出してもらった。それが『TOKYO STYLE』なんです」

刊行後、その思いは世界の人々に届いた。国内外から「自分の家にそっくりだ」という共感の声が寄せられ、写真集は長く読み継がれることになる。

「都市の若者の生活って、世界中でそんなに変わらないんですよ。だから海外でも共感が大きかったですね」

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