
そういった見立てのもと、都築さんは本格的に「記録」として“普通の部屋”をまとめることを考えた。撮影のスタイルも、ただのスナップではない。建築雑誌やライフスタイル誌で紹介するのと同じく、狭い部屋もきちんと正面から撮影した。
都築さんは、若者たちの普通の暮らしを、単なる“狭い部屋”“散らかった部屋”としてネタ的に消費するのではなく、時代を映すリアルな風景として丁寧に記録し、ひとつの写真集にまとめたのだ。
『TOKYO STYLE』のページをめくると当時の空気が立ちのぼってくるのは、都築さんの「これは残すべき貴重な記録なのだ」という意気込みと、対象への敬意が伝わってくるからだ。
SNSでは発信者の「どう見せるか」という意識や計算が先立ちがちだが、『TOKYO STYLE』には暮らしをそのまま肯定し、愛おしむ都築さんならではの視点がある。そのまなざしがあるからこそ、時代を超えて読み継がれる記録になり、唯一無二の作品になっているのだ。

「誰が喜ぶの?」と言われながらつくった
ただし、この試みは最初から評価されたわけではない。「普通の人の部屋を真正面から記録する」企画を、確信を持って出版社に持ち込んだ都築さんだったが、当時返ってきたのは冷たい反応だった。
「どこの出版社にも理解されなくて。『そんな部屋を紹介して、誰が喜ぶの?』『見栄えが悪い』『夢がない』って、そういう声ばかりでした。仕方がないから自分でカメラを買って、2〜3年かけて撮りためて、出版社に無理やり出してもらった。それが『TOKYO STYLE』なんです」
刊行後、その思いは世界の人々に届いた。国内外から「自分の家にそっくりだ」という共感の声が寄せられ、写真集は長く読み継がれることになる。
「都市の若者の生活って、世界中でそんなに変わらないんですよ。だから海外でも共感が大きかったですね」
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