「応戦などできるものではない。逃げるのが精一杯だった」太平洋戦争の戦場で何があったのか?いま聞かないと戦争体験者いなくなる

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その方は、「自分は心底戦争はやってはいけないと思っているけれど、その一方でソ連(ロシア)にはいまでも怒りを覚えている」とおっしゃったのだそうだ。「若いころは、なにかあればソ連に仕返ししてやろうと考えていた」とも。

自分の矛盾と向き合った結果、「この世界から戦争がなくなることはないのではないか」という結論に達したわけだ。人間は矛盾から逃れられないものでもあるだけに、これは的を射た指摘であり、すべての人にあてはまることだともいえる。

いずれにしても、80年の歳月は「記憶」を「記録」に変えてしまう。しかし、未来のことは考えなくてはいけない。未来を語るうえでもっとも重要なことは、過去を知ることだ。未来を見通すための鍵は過去にしかないからだ。

本書において著者は、このことについて次のような指摘をしている。

かつて自民党で最大派閥を率いた故田中角栄元総理は、新人議員に「戦争を知っている世代が政治の中枢にいるうちは心配ない。平和について議論する必要もない。だが、戦争を知らない世代が政治の中枢となったときはとても危ない」と薫陶を授けていたという。(「はじめに」より)

しばしば話題に上がる有名なエピソードではあるが、いまの日本にあてはめてみれば、まさに田中角栄の予見したとおりなのかもしれないと思わざるを得ない。戦争を知らずに、「気に入らない国はやっつけてしまえ」と勢いづくことにリアリティはなく、とても危険だ。

だからこそ著者は、「戦争の真実」を追求しようと考え、本当に戦争を知る人たちと会い、話を聞いているのである。ちなみにお会いした方のなかで、もっとも若い方は89歳だったそうだ。

人間の弱い心や悪しき習慣は、戦争という狂気の増幅装置によって暴走する。
私は正義感面をして、虐殺行為を批判しようとは思っていない。何より同じような状況に置かれれば、自分もまた狂気に走り、虐殺、略奪、強姦、放火を繰り返したに違いないと思う。戦争は普通の市民を虐殺者に変える。それが戦争なのだ。(54〜55ページより)

言葉にできない思いを汲み取る

著者は戦場体験者の話を聴いてみて、その多くが超高齢化しており、人数も著しく減少していることを改めて実感したという。開戦当初の作戦に従事していた歴戦の勇士は100歳以上。いま話を聴けるのは、開戦時には新兵だった人か、日本が敗色濃厚となった戦争末期に戦場へ駆り出された人たちがほとんどだということだ。

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