医師が警鐘「根拠なき『がんの自由診療』に飛びつかないで」 患者の思いを利用する「ビジネス」の問題点
勝俣さんは、「標準治療=エビデンスに基づいた『最善』『最良』の医療であるということを、ちゃんと知ってほしいと強く思います。
だからこそ、公的保険が適用され患者さんの負担が軽くなるのです。自由診療を受ける必要はまったくありません」と強調する。
筆者は5年前に悪性脳腫瘍(膠芽腫)で妻を亡くしている。完治は不可能なきわめて悪性度の高いがん。
大学病院が提示する治療より「上」があるはずだと、わらにもすがる思いでネットなどで情報を調べるうちに自由診療や代替療法に行き当たり、すんでのところで立ち止まった経験がある。
半信半疑で、メディアに広告を出していた、がんの自由診療のセミナーに参加したが、モニターに映し出される解説資料を撮影していたら、なぜかスタッフに撮影NGと注意された。
壇上の担当者は「論文を書く医者はヒマな医者」などと、論文は根拠にならないと言い切り、どのくらいこの治療を続ければいいのかという質問には明確に答えず、「この治療を途中でやめちゃった患者さん、その後連絡がとれなくなったんですよ。どうしちゃったんでしょうね?」などと不安をあおる言葉を重ねた。
「とにかく早く、早くこの治療を開始したほうがいいんです」と繰り返す別の登壇者。だが、参加していた患者や家族と話をすると、この「早く」にあおられかけている人もいた。
日本人の多くががんになる時代だが、自分や家族がいざ罹患したあとでは、しっかりとした心構えはできないのかもしれない。
遠慮せず主治医に質問を
セカンドオピニオンを求める患者と数多く向き合ってきた勝俣さんは、「患者側が主治医からちゃんと話を聞けておらず、不安に駆られているケース」がとても多いと感じているという。
何を目的にした治療なのか。治癒か温存か。他の治療の選択肢はないか。自由診療や代替療法にエビデンスはあるのか。
「日本には『お医者様が言うことだから…』という医者信仰のような風潮が昔からあり、主治医に失礼だと、疑問をぶつけることを遠慮してしまうのでしょう。
こんな『信仰』はもうおしまいにして、質問や疑問点を事前に紙にまとめたり、後から内容を確認するために許可を得たうえで録音をさせてもらうなど、まずは主治医としっかり向き合ってほしいと思います」(勝俣さん)
もし、ネットや書籍などで聞こえがいい自由診療や代替療法などに行き当たっても、主治医に相談してエビデンスなどを確認すること。
根拠のない「最先端」に惑わされてしまうような、お行儀の良い患者である必要はないのだ。
(ライター・國府田英之)
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