「中国崩壊」論は、単なる願望にすぎない それでも中国経済は日本の脅威になる

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心地よい情報だけ聞いていては判断を誤る。それは歴史が証明するところである。相手をよく見て冷静に分析することは、何も難しいことではない。食料、エネルギー、貿易、不動産価格など多方面にわたるデータを集めて、総合的に考えてみることだ。その際には、自分の願望を分析に入れ込んではいけない。

中国の強みと弱み「農民国家」

そんな分析を続けると、貿易戦争において日本に勝ち続けている中国であるが、強い国だけの国でないこともわかる。中国は中進国になった今でも「農民国家」である。それは中国の強みにも弱みにもなっている。

中国の人口は13億人であるが、現在でも、その中の9億人は農民戸籍のままである。都市戸籍を持つ人は13億人の中の4億人にすぎない。そして、奇跡の成長によって豊かになったのは、都市戸籍を持つ4億人だけである。

農民戸籍の9億人の中で、若者を中心にした3億人が都市部に働きに出ている。彼らは農民工と呼ばれるが、その彼らを安い賃金でこき使うことが、中国の奇跡の成長の原動力になった。これが、中国が日本との貿易戦争に勝利できた最大の理由であり、中国の強みでもある。

ただ、中進国になった中国がこれからも成長しようとすると、農村に取り残された老人を中心とした6億人の農民や、都市で農民工として働く3億人を豊かにしなければならない。だが、これは言うは易く、実現させることは難しい。実現不可能と言っても過言ではない。これが中国の弱みになる。

日本でも農村の疲弊は大きな問題になっている。経済が発展する過程で農村が疲弊することは歴史の必然である。日本も農業を再建し農民を豊かにすることに苦労しているが、農民の数は多く見積もっても300万人程度である。しかし、中国には6億人もの農民がいる。それは日本の200倍。それに加えて3億人もの農民工がいる。

農民工を豊かにするために彼らの賃金を上げれば、中国は輸出競争力を失う。だから、無暗に賃金を上昇させることはできない。しかし、そうであれば、中国のGDPがこれ以上増大することはない。中国政府は「新常態」なる言葉を使っているが、過去20年の奇跡の成長を続けることができないことは明らかである。そう考えれば、中国はそれほど恐ろしい相手ではない。

それでも貿易戦争では強敵

日本の多くのマスコミは「中国崩壊」をはやしながら、その一方で中国の軍事的な脅威をあおっている。しかし、それは正しい認識ではない。今後、奇跡の成長を続けることができなくなった中国は、それほど大きな軍事的脅威ではない。

その一方で、経済が停滞するために、バブル崩壊後に日本が行ったように、輸出に頼って経済を成長させようとするに違いない。その結果、貿易戦争の相手としてこれまでよりも一層恐ろしい相手になる。円安頼みの政策を続けていれば、円安が継続できなくなったときに、貿易戦争でよりひどく中国に負ける可能性が高い。

円安が続いているうちに中国を冷静に分析して、円高になっても中国に勝てる産業構造に改めるべきである。そのために、それほどの時間は残されていないと思う。

川島 博之 東京大学大学院農学生命科学研究科准教授

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かわしま ひろゆき / Hiroyuki Kawashima

1953年東京都生まれ。1977年東京水産大学卒業、1983年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。

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