QOL爆アゲ! 成長は目指さずイヤな人とも関わらず「幸せに生きる」ことだけを考える《常識外れの起業スタイル》の始め方

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そうこうしているうちに、「事業拡大のための資金」の名目で借金と必要経費がどんどん増えていくことになります。繰り返しとなりますが、このような投資は黒字化への距離を遠くします。もちろん、店舗や設備が増え、従業員を雇うと管理業務が増えてしまいます。

これらは、会社の成長可能性を得るために、企業家当人の業務量とリスクの拡大を背負う意思決定です。どこかで「最適なバランス」があると前向きに考える人もいると思いますが、人の話に乗って事業を拡大することは、「自由に、楽しく生きるために起業した人」にとってはよくよく考えると極めて非合理的な意思決定であることに、注意が必要です。

「そこそこ」で良いはずの事業の内容や規模に介入してきたり、自分の事業と生活に対して負担しか与えない仕事を割り振ってくる「他者」は、ライフスタイル企業家にとって不要な存在です。

だからこそライフスタイル企業家は、通常の企業家が積極的に参加する異業種交流会に参加することも、行政主催の会合への参加や、政治家への陳情やロビー活動にも消極的になります。ライフスタイル企業家に求められるのは、起業を通じて手に入れた「快適な環境」に介入してくる他者とは「距離を取って付き合わない」ことだといえるでしょう。

「低関与」とは「関係の断絶」ではない

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ここで注意せねばならないのは、低関与であり関係の断絶ではないことです。

同じ趣味、特技を持ち「楽しいのが一番重要」と価値観を共有できる人とは、ライフスタイル企業家は初めて出会った関係でも親密に接して仲間を増やそうとします。同様に、行政や政治家、銀行やコンサルタントであっても、「自分たちが快適な状況」を作り上げたり、守るためには「適度な関係を維持して、必要な時は利用する」という距離感を維持します。

海でのサーフィンやダイビング、山間部でのトレッキングでビジネスをしている場合、自分を含めて仲間たち=お客さまと「楽しんでいる」場所が、地域開発などで不可逆的な破壊に見舞われそうな場合は、あえて政治的活動を行い、政治家や社会運動家と密接につながるケースもあります。

実際、筆者が調査を続けてきた沖縄県座間味村のダイビング事業者たちは、沖縄県が推進を図った観光客の増大案には反対運動を展開しつつ、国が制定したエコツーリズム推進を利用してサンゴ礁保全運動を展開しました。

このように必要とあれば面倒事を厭(いと)わぬ姿勢を見せますが、ライフスタイル企業家の判断基準の根幹にあるのはあくまで、「楽しく生活できるのか?」というライフスタイルの充実にあることは、忘れてはならないことだと思います。

高橋 勅徳 東京都立大学大学院経営学研究科准教授

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たかはしみさのり / Misanori Takahashi

神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)。沖縄大学法経学部専任講師(2002~2003年度)。滋賀大学経済学部准教授(2004~2008年度)。首都大学東京大学院社会科学研究科准教授(2009年~2017年度)を経て現職。専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞受賞。第17回日本NPO学会賞優秀賞受賞。

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