QOL爆アゲ! 成長は目指さずイヤな人とも関わらず「幸せに生きる」ことだけを考える《常識外れの起業スタイル》の始め方
ところが、これが起業を通じて「幸せ」な状態を維持するという点では合理的な行動であることを指摘しているのが、Petersら(2009)によるベンチャー企業の成長と生活の質(Quality of life)との関係に関する論考です。
起業を決意し、会社を立ち上げたばかりの頃は収入も少なく、仕事に関する混乱も多く、否応なく生活の質は低下します。しかし、固定客を獲得し仕事の受注も安定し、業務ルーティンが確立して会社やお店も黒字化し、生活するには十分な収益が確保できる頃になると生活の質が向上していきます。このタイミングが、いわゆるワーク・ライフ・バランスが両立し、幸福度が上昇し始める時期であるといえます。
ところが、この段階から成長段階に入ったベンチャー企業には、取引銀行、取引企業がそれぞれの事情で「事業を拡大しないか?」と声をかけてくる誘惑が増えていきます。
その声に誘われるまま、借入金を増やし、お店を増やしたり、大きなオフィスを借りて従業員を増やし、営業エリアも広くしていくうちに、私生活を犠牲にせねばならないほど管理業務は増大し、背負わねばならないリスクやコストも拡大し、収入がいくら増えても幸福度が落ち続けるという状態に嵌(はま)ってしまうのです。だからこそPetersらは、起業を通じて幸せを獲得するライフスタイル企業家は、そこそこの稼ぎで「意図的に成長を止める」決断が重要であることを指摘したのです。
他人の都合で働いてはいけない
最後に、一部のライフスタイル企業家に頻繁に見られる特徴として指摘されているのが、低関与=他者の都合では働かない、という点です。ここで言う「他者」とは、先述の銀行や取引先、お客さまだけでなく、政治家や行政、コンサルタントといった、「自分のビジネス」に関与しようとするすべての他者になります。
通常の起業であっても、ライフスタイル起業であっても、事業が軌道に乗り始める(黒字化して売り上げが伸び始めた)時期になると、お金の匂い(=ビジネスチャンス)を嗅ぎつけてさまざまな他者(他社)が近寄ってきます。
最初に来るのは、先に触れたような銀行やコンサルタントでしょう(場合によってはセットで来訪します)。彼らは借り入れして支店を出し、設備を拡大し、従業員も新たに採用して、より大きな売り上げを目指しましょうという提案をしてきます。
一見ポジティブかつサポーティブな提案ですが、銀行にとっては借り入れによる利子収入、コンサルタントにとっては事業拡大をサポートしてコンサルティング料が欲しい、というのが本音のところにあります。
確かに、将来的に上場を目指すベンチャー企業の場合、どこかのタイミングで銀行から借り入れを増やしたり、投資家巡りをして増資したりして、事業資金を増やす必要があるでしょう。当然、事業内容が拡大し、考慮に入れねばならないステークホルダーのマネジメント業務が増大し、コンサルタントの手を借りなければならなくなります。
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