「なぜ責めてしまったのか…」「死んで父に謝りたい」特殊詐欺の被害にあった父が自死…遺族が抱き続ける深い後悔
篠原さんによれば、自殺に心が傾いている状態の相談者のうち、原因に特殊詐欺が関係しているのは、1カ月に5件程度。
警察庁が9月に公表した特殊詐欺の被害概要によれば、今年7月末時点で、特殊詐欺は認知件数1万5583件(44.9%増)、被害額は722億円(153.9%)に上った。いずれも前年同期比で大幅に増加している。※()内は前年同期比。

相談者からの電話が届くスマホを手に(写真:弁護士ドットコム)
今年3月下旬にも、60代の女性から電話があった。オレオレ詐欺で200万円を奪われた80代の父親が死んだという。
孫になりすました相手から「会社の売り上げでギャンブルをした。2度としないから200万円貸してほしい」と頼まれ、高校時代の友人を名乗る受け子に金を渡してしまったそうだ。
「家族が父を激しく責めた。次の日から対話がなくなり、1週間後に自死をしていた。近所には隠している。申し訳なかった。私も死んで父に謝りたい。どんなに寂しかったか」(女性との電話相談メモから)
午前3時半に鳴った電話は1時間弱続いた。篠原さんからは、このように伝えた。
「お父さんの、孫のためなら、家族のために役立ちたい、その思いを認めて、ありがとうと言い続けて生きていく、お父さんは犯罪者じゃない」
孤立する高齢者の心の隙間に、詐欺師の言葉は入り込む
「1995年から相談を始めたが、特殊詐欺の手口は多様化し、被害はなくならない。被害者が自らの行為を恥じることも、被害者が家族から責められることも変わらない」(篠原さん)
背景にあるのは、社会に広がる孤立、特に高齢者の孤立だと指摘する。
「遠方で暮らしている人も、3世代同居であっても、子どもや孫との縁は薄い高齢者は少なくない。家族のピンチを知り『私が役に立つ時が来た』となけなしの預金をあっという間に渡す」

今年4月、70代の女性が電話口で「主人のところに逝きたい」と涙した。
この女性は「コンビニを経営する娘夫婦の倒産危機」を伝えられて、亡夫が残した200万円を受け子に手渡したという。