なぜ「GDP過去最高」でも生活は苦しいのか? "見せかけ好景気"を生み出す日本の大問題

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限られた人材がピラミッド建設に集中すれば、他の分野に深刻な副作用が生じる。

たとえば、全国で老朽化が進むインフラ整備が後回しにされる可能性がある。日本にはすでに耐用年数を超えた水道管が17万キロメートル以上あり、修繕が追いつかず、道路が突然陥没する事例は年間3000件近くにも及ぶ。予算があっても人手がなければ解決できない問題だ。

副作用はそれだけでは終わらない。マイホームを夢見ていた人は、人件費の高騰であきらめざるを得なくなる。また、建設業界の高給に惹かれて、他の業界の人材も吸い取られ、人手不足はさらに深刻化する。経済全体が、一つのプロジェクトに振り回されて崩れていく。

GDP成長は私たちの豊かさに直結しない

ピラミッドの例は極端でわかりやすいが、実際の経済では問題は見えにくい。

たとえば、2024年当時、海外からの投資を呼び込んだ熊本のTSMC半導体工場の稼働は、経済界での注目を集め、「雇用を生んだ」「大きな経済効果がある」として称賛された。

一昔前であれば、確かにその通りだっただろう。しかし、人手不足の現代では副作用を起こしている。熊本の教員不足の原因の一つは、「この工場の稼働によって、人材が吸い上げられたため」、という声を耳にしたこともある。経済効果やGDPという数字で見れば、学校教育より半導体を作るほうが価値がある、ということになってしまう。

「お金を稼ぐほうがえらい」という価値観のもとでは、将来を担う子どもたちを育てることは後回しにされる。

「お金さえ回せば経済はよくなる」という常識は、ヒトもモノも無限に存在するという前提に立った、旧世界の幻想にすぎない。この古い価値観に、私たちは終止符を打たなければならないだろう。

2024年、日本のGDPは過去最高を記録した。だが、その一方で生活の苦しさを表すエンゲル係数(家計の消費支出に占める食費の割合)は43年ぶりの水準にまで悪化した。

街では「景気がよくなった実感はまるでない」という声が聞こえてくる。数字としてのGDP成長が、私たちの豊かさに直結しない現実が浮き彫りになった。

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