「金妻」の街・たまプラーザは、なぜ今も人を惹きつけるのか? ──40年人気の秘密は"この広場"にあった

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たまプラーザ テラス
たまプラーザ駅にある「たまプラーザ テラス」。東急による巧みな街づくりが、数十年にわたって人気の街を形作った(筆者撮影)
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かつて"金妻"の舞台として話題をさらったたまプラーザ。40年経ったいまも駅前は賑わい、ベビーカーの親子と高齢者がすれ違う。高齢化が深刻化する日本の郊外住宅地で、ここだけが時を巻き戻したかのようだ。
なぜ、この街は寂れなかったのか。背景には、一つの商業施設の進化と、東急と行政が描いた“未来像”があった――。

渋谷から、東急田園都市線に揺られること30分弱。たまプラーザ駅で降りようと腰を上げると、周りに座っていた人も一斉に立ち上がった。想像していたよりも多くの人が、たまプラーザ駅で降りていく。

エスカレーターに乗りふと上を見ると、巨大な屋根に包まれていることに気づいた。右の東改札を見ても、左の中央改札を見ても商業施設「たまプラーザ テラス」の入口がある。東急が、駅と商業施設を一体開発したのだ。

構内
上から見た写真。両端に「たまプラーザ テラス」、中央に駅、それを大きな屋根が包んでいる(筆者撮影)

周辺は「美しが丘」という地名がつけられ、1980年代から高級住宅街として根強い人気を誇る「たまプラーザ」。かつてはドラマ『金曜日の妻たちへ』の舞台となったが、今や40年前の話だ。

それだけの歳月が経てば、街そのものが高齢化し、寂れてもおかしくない気もするが……今もなお賑わっているのは、なぜなのか。

なぜ、こんなにも人が集まるのか?鍵は"この広場"にあった

理由を探るべく、ひとまず中央改札から出てみよう。

目の前に広場が現れる。ここは「たまプラーザ テラス ゲートプラザ」内にある「ステーションコート」だ。

イベント
取材日は残念ながら何も行われていなかったが、2025年4月来訪時は、イベントで賑わっていた。近所でこんなイベントがあるなんて羨ましい(筆者撮影)

こういったイベントは、ここを通って帰る人々の生活を彩るのはもちろん、近隣駅に住む人が「たまプラーザ テラス」を"何度でも訪れたい"と思う動機になっているだろう。

イベントがなくても、小さな子連れから若者、年配者層まで幅広い人々が行き交っている。平日も土日も同じように賑わいが感じられる。

看板
壁面には、「15th ANNIVERSARY」の大きな看板。「たまプラーザ テラス」のグランドオープンは2010年で、今年で15周年。人々の暮らしを明るく”照らす”との意味が由来になっている(筆者撮影)
フラッグ
地域の方々の言葉と思われるフラッグも飾られている。「たまプラーザ」の街を象徴するような言葉だ(筆者撮影)

施設の内部へ入るように歩いていくと、もう一つの広場が見えて来る。こちらは「フェスティバルコート」。

広大な空間とまではいかないが、噴水と緑があり、子どもが水を楽しそうに眺めたり、芝を走ったり、高校生が談笑したりしている。

フェスティバルコート
多種多様な人々が使える空間「フェスティバルコート」(筆者撮影)

屋上にも広場があり、ゆったりと休む人の姿が見られた。

たまプラーザ テラス ゲートプラザ
「たまプラーザ テラス ゲートプラザ」の屋上広場(筆者撮影)
東急百貨店
「東急百貨店(たまプラーザ テラス ノースプラザ)」の屋上にある「コモンフィールド」(筆者撮影)

このような誰もが思い思いに使える空間が、「たまプラーザ テラス」の魅力である。

なぜ「誰にとってもちょうどいい」と感じるのか?

「たまプラーザ テラス」は、4つの施設で構成されている。「ゲートプラザ」、「サウスプラザ」、「リンクプラザ」、そして「東急百貨店(ノースプラザ)」である。

「ゲートプラザ」が最も大きく、「東急ストア」や「無印良品」、「ユニクロ」から、高感度な食物販、セレクトショップまで、幅広い年齢層の需要に応えるテナントがそろっている。

ゲートプラザ
「たまプラーザ テラス」の中核を成す「ゲートプラザ」(筆者撮影)

「サウスプラザ」と「リンクプラザ」は、スイミングスクールやクリニック、銀行など目的性の高いサービス店舗が中心。近隣に住む人たちの生活を、より便利にしている。

サウスプラザ
子どもたちが多い「サウスプラザ」(筆者撮影)
リンクプラザ
クリニックや銀行のある「リンクプラザ」(筆者撮影)

「東急百貨店」は、年配者層ばかりかと思えばそうでもない。婦人服売場などは中高年向けの雰囲気だが、「GU」や「ノジマ」、ガチャガチャコーナーなど百貨店っぽくないテナントも入っており、若者や子連れも見かける。地下1階の食品売場は、特に多くの人が買い物を楽しんでいる。

東急百貨店
多様な世代で賑わう「東急百貨店」(筆者撮影)

郊外のショッピングセンターは子連れファミリー、もしくは年配者層が多く、20代の筆者はなんだか馴染めない気持ちになることが多々ある。しかし、「たまプラーザ テラス」では同世代らしき人とよくすれ違い、浮いている感じがしなかった。

「たまプラーザ テラス」は"誰にとってもちょうど良く何でもそろう商業施設"になっている。

“かつて30代”はいま70代──街が歳をとるということ

「たまプラーザ テラス」を後にして、「美しが丘」の街を歩いて行こう。

歩いていると、高台にある団地が目に入った。ここ、美しが丘1丁目は、団地が大部分を占めている。

美しが丘1丁目の巨大団地
美しが丘1丁目の巨大団地(筆者撮影)

1960年代に建築されたため建物は古いが、自転車や車が置いてあり、ベランダには洗濯物が干されている。寂れた団地ではなく、今でも人が住んでいる。学校帰りの小学生もたくさん見かけた。

団地を抜けると、古くから住まわれていそうな戸建が並ぶ。デザインに重厚感があったり、駐車場にはシャッターがついていたりと立派な戸建が多い。

このあたりは、美しが丘3丁目。セミの鳴き声と飛行機の音だけが響いている。たまプラーザ駅からは徒歩20分ほどの距離がある、閑静な高級住宅街である。

美しが丘3丁目の景観
美しが丘3丁目の景観(出典:東急公式ホームページ)

歩みを進めると、美しが丘4丁目に入る。比較的新しい戸建が増えてきた。近くに小学校があり、学校帰りの小学生がたくさん歩いている。

それにしても、坂が多い。なぜ、ここが「美しが丘」というのか妙に納得した。と同時に、お店が全然ない。暑さから逃れようと思っても、コンビニも見かけない。ひたすら静かな住宅街が続くのだ。

ただ、決して嫌な気持ちにならない。むしろ、「美しが丘なんだから、こういう街であるべきかもしれない」と思えてくる。

一つの商業施設が、街を救った──「テラス」の15年

たまプラーザの街が寂れることなく賑わい続けているのは、豊かな自然や子育てしやすい環境など、さまざまな要因がある。

美しが丘公園
「美しが丘公園」では、子どもたちが遊んだり少年野球の練習に励んでいたりする(筆者撮影)

住宅が段階的に供給されていることも大きいだろう。 

東急はたまプラーザ駅周辺に、マンション「ドレッセ」シリーズを2003年、2005年、2008年、2012年、2013年、2015年、2018年、2021年と継続的に開発している。2026年には、「ドレッセたまプラーザ プレイス」の竣工を予定している。

ドレッセたまプラーザレジデンス
2012年にできた「ドレッセたまプラーザレジデンス」(筆者撮影)
ドレッセWISEたまプラーザ
2018年にできた「ドレッセWISEたまプラーザ」棟間の広場では小学生が楽しそうに遊んでいる(筆者撮影)

そして、商業施設「たまプラーザ テラス」の存在がやはり大きい。何度でも来たくなる仕掛けがあり、どの世代にとってもちょうど良く、思い思いに過ごせる空間がある。

新陳代謝する街・たまプラーザ

もっとも、たまプラーザ駅周辺でも、高齢化が進むエリアもある。

横浜市のデータによると、先ほど触れた美しが丘1・3・4丁目は、65歳以上の割合が高い地域。特に3丁目は30%を超え、高齢化が進行している。かつてこの地にマイホームを買った30代が、今や70代になっているのだから当然の話ではあるが……。

この一帯の戸建にお住まいの方は車を持っているであろうが、坂が多くお店も少ないため、高齢になると生活に困るかもしれない。

坂
坂なんてものともせず元気に走る小学生を横目に、アラサーの筆者はクタクタである(筆者撮影)

とはいえ、街を歩いていても高齢者だけでなく、子どもたちや若い人もたくさんすれ違う。たまプラーザ駅に近い美しが丘2丁目や新石川3丁目では、65歳以上の割合は低く、15歳未満の割合が高い。

豊かな自然や子育てしやすい環境、段階的な住宅の供給、どの世代にとっても魅力的な「たまプラーザ テラス」によって、たまプラーザの街は新陳代謝しているようだ。

【後編】「たまプラーザ」が"街の高齢化"から逃れられた訳 では、たまプラーザのこれまで歴史をより詳しく解説している。
坪川 うた ライター・ショッピングセンター偏愛家

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つぼかわ・うた / Uta Tsubokawa

ショッピングセンター偏愛家・ライター。新卒で大型SCデベロッパーに就職。小型SCデベロッパーへの転職を経て、フリーランスに。国内外で400以上の商業施設を視察済み。宅建・FP2級。熊本大学卒。

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