元イタリアンシェフ「コロナ禍で1500万借金」から《万博出店》へ。「家賃2万円」おんぼろとんかつ店が月商2700万円に急成長した「振り幅戦略」
作り方は一般的なとんかつより、はるかに手間暇がかかる。
使う豚の銘柄や部位に合わせて、脂の融点、筋繊維の密度、保水率などから、「どんな噛み応えで、どんな肉汁の出方にするか」までをイメージ。熟成方法、カット、バッター液やパン粉の付け方、揚げ時間も変えるからだ。カットだけでも、毎朝最低2時間をかける。
揚げる温度も重要だ。一般的なとんかつ店では170~180度の高温で3~5分揚げるのが常識。しかし彼は、イタリア料理の手法と、「とんかつ80年の歴史」の中で確立された調理法を応用し、「150度ピークの低温調理法」を編み出した。

低温で10~30分、じっくりと熱を加えて肉の中心温度を上げ、ピークの150度で衣をカリッと仕上げる方法だ。これだと、肉はジューシーでやわらかい状態が保たれる。火も通りすぎず、揚がった肉の断面はいずれも桜色だ。
ギリギリの低温調理とカットで銘柄豚の個性を引き出す
さらに、人間の舌が「肉の個性」を感じやすい利点もあるという。魚もだが、人間は火を通した状態より、生に近いほうが風味を感じやすい。とんかつも生のほうが1つ1つの銘柄豚の違いが際立ち、火を通すほどわかりづらくなる。そのため、ギリギリの低温で揚げて安全性は保ちながら、風味を残しているのだ。

ひと品ひと品、部位もカットの形も異なり、共通するのは、サクッとした衣のみ。ひと口に「とんかつ」とまとめるのがはばかられる、強い個性を放っている。そこに塩、ソース、たまり醤油を好みでかければ、さらなる変化が訪れる。「とんかつだけを食べ続けている」とはとても思えない食体験だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら