スマートグリッドの経済学--スマートグリッドにより経常収支赤字化を回避せよ
2011年3月11日の東日本大震災後、日本の貿易・サービス収支の黒字は顕著に減少傾向を示している。日本経済は5~10年のうちには経常収支が赤字となり、財政収支の赤字とともに“双子の赤字”に陥ることが危惧される状況となっている。
そのような中、スマートグリッドとエコポイントを活用した経済政策は、危惧されている双子の赤字状況を回避できる有力な手段でもある。さらに、「交易条件」(輸出物価/輸入物価)を改善することにより、産出量1単位当たりの粗利益の水準を上昇させ、企業収益の回復を通じて日本経済の苦境からの脱出をサポートするという効果も期待できる。
かつて、経済学者のクローサーは、国の経済発展段階は経常収支の変化に反映されるという「発展段階説」を提唱した。それによると、(1)未熟な債務国から始まり、(2)成熟した債務国、(3)債務返済国を経て、多額の経常収支黒字が続く(4)未熟な債権国に至る。その後、経常収支は黒字であるが、貿易・サービス収支の赤字を所得収支の黒字が補うという(5)の成熟した債権国に移行し、最終的には、(6)の債権取り崩し国となるとされている。
中国は(3)の債務返済国、アメリカは(6)の債権取り崩し国であり、日本は(4)未熟な債権国から(5)成熟した債権国への移行期にある。
そもそも一国の経済においては、「国民総所得=税金+民間消費+民間貯蓄」という関係が成り立っている。他方、支出面から「国民総所得=民間消費+民間投資+政府支出+経常収支」という関係も成り立っている。
そうすると、「税金+民間消費+民間貯蓄=民間消費+民間投資+政府支出+経常収支」なので、「民間貯蓄−民間投資」を貯蓄超過、「税金−政府支出」を財政収支と定義すれば、「貯蓄超過+財政収支=経常収支=貿易・サービス収支+所得収支」という恒等式が得られる。
この恒等式を前提に考えると、財政収支が巨額の赤字となっている状況下で貯蓄超過がそれを補えないようになると「貯蓄超過+財政収支」がマイナスとなり、経常収支がマイナスとなることになる。
現在日本の貯蓄超過の大半は企業部門におけるものだが、これまで国債の国内消化が順調に進んできたのは、前回の記事「スマートグリッドの経済学--金融政策、財政政策に代わる第3の経済政策を」でも述べたように、企業の資金需要が減退したためだ。このため、銀行が企業向け貸し出しを減少させ、代わって、増発された国債の大部分を購入してきた。