「いま最もApple的」な新興デジタル製品メーカー《Nothing》の正体。透明パネルが特徴、ファンと独特な関係。注目のイギリス発ベンチャーを解説

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透明パネルを多用した独自のデザイン言語は、元ダイソンのデザイナーが生み出したもので、このブランドの特徴ともなっている。米TIME誌の「Best Inventions」に選出されるなど、立ち上げ初期から特別な存在だった彼らは、創業から4年でスマートフォンやオーディオなどのデバイスを累計700万台以上販売し、総売上は10億ドルを超える規模まで成長した。

Nothing
透明パネルを多用した独自のデザイン言語はブランドの特徴となっている(筆者撮影)

これは小規模スタートアップとして異例の躍進だ。同時期にスマートフォン市場に参入したスタートアップがブランド化に苦戦する中、Nothingは“過去10年でスマートフォンビジネスを拡大できた唯一のスタートアップ”とも評される。

企業の構造もユニークで、創業当初からブランドコンセプトに共鳴するファンとのコミュニティを重視。8000人以上のファンがコミュニティに参加し、少額ながら投資を行って株主となっている。コミュニティの代表者は取締役会にも出席し、コンセプトや今後のビジョンに関して発言権を持つ。

このような独自の体制によってユーザーの声を直接取り込んでいくコミュニティ主導のアプローチは、Nothingのユニークなブランド文化を支える極めて重要なピースだ。

停滞するガジェット市場への挑戦

かつては、テクノロジーが我々のライフスタイルをどこまで変えていくのか、新しい製品が発表されるたびにワクワクしていた人も多かったのではないだろうか。しかし、その感覚はとりわけハードウェア製品の世界において希薄になっている。

Nothing Japan代表の黒住吉郎氏はソニー、アップルなどで多くのテクノロジー製品を手掛けてきたが、近年は「どのプロダクトも似たり寄ったりのデザインでだんだんつまらないものになった。ユーザーは正直で、かつて1年だった買い換えサイクルがいつの間にか3年になっている」と指摘する。

スマートフォンはテクノロジーを通じて新たな体験を得るデバイスではなく、SNSを通じて情報に接するための機械となり、本来もたらしていたはずの積極性や創造性は失われつつある。

そんな失われたワクワク感を取り戻すため、Nothingは「10メートル離れていても一目でNothingと分かるデザイン」や「デザイン思考をソフトウェアにも持ち込む」ことを理念に掲げてブランドコンセプトを練り上げた。

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