20代が「消費しない理由」のひとつめは、20代が過ごしてきた時代背景、すなわち「生まれた頃からずっと不景気だった」ことがあります。
「消費しない」3つの理由
前回も説明したように、さとり世代は、バブル崩壊後の1990年代以降の「失われた20年」に育った、いわば「不景気しか知らない世代」です。閉塞した経済状況、斜陽化していく経済しか知らないため、「人生は不安定なものだ」という考えが体にしみ付いている世代です。
昔、景気がよかった時代の若者たちは、アバウトな期待によって気軽に消費をしていました。言ってみれば、おカネを払うことでどれだけ「よいこと」が手に入るかという、「足し算」の発想で行動してきたのです。
しかし、つねに不景気な時代しか知らないさとり世代は、そうした見込みでは消費をしません。つねに「コストパフォーマンス」(かけた費用対その効果)を冷静に考え、そこに「マイナスが生じないか」を確認することが習慣化しています。たとえば、「ブランドの服を買っても着る回数は限られる。それよりは同じ値段でファストファッションを複数買って着回すほうが得だし、役に立つ」と考えます。
つまり、「リスクヘッジを考え、コスパを計算する」いわば「引き算」的な発想が根本にあるのです。それが若い世代の消費意欲をそいでいる一因と私は考えています。
20代は「物心がついた頃からずっと不景気だった」世代ですが、彼らが「物心がつく前」すなわち「生まれた時代(1983~94年)」に限って言えば、日本はバブル景気の前後になります。
社会全体としてみれば、モノが生活の中に行き渡り、豊かで不足のない時代で、彼ら彼女らは「豊かなモノ」に囲まれて過ごしてきました。その幼少期の体験もあり、さとり世代はそもそもモノに満たされていて、「上の世代よりも物欲が少ない」ように思われます。
さらに、彼らが「育った」時代は、経済の停滞期に陥った「デフレ期」。「デフレ」は基本的にはネガティブな現象として語られますが、日本の企業はほかに類を見ない工夫を重ね、「優れたデフレ商品」が続々と誕生しました。
ファストファッション、アウトレット、低価格メガネ、コンビニのPB、軽自動車、LCC……すべてがこの時期に一気に浸透しました。価格は安くても品質はそこそこ、つまり「安かろう、そこそこよかろう」が出そろった時代です。その中で青春期を送った若者たちは、「カネがなくてもある程度良質なモノ」を得られることで満足してきました。
上の世代から見れば、「消費意欲がない」「背伸びしない」などとマイナスに映ってしまう消費傾向ですが、よく考えてみれば、さとり世代は社会環境が生み出し、状況に適確に反応した消費者の姿なのです。
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