今こそ学ぶべき西郷隆盛の合従連衡論--『日本近代史』を書いた坂野潤治氏(歴史学者、東京大学名誉教授)に聞く

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──議会構想もあったとか。

西郷は幕府開明派から合従連衡を公議会に格上げする知恵を学んでいる。勝海舟との会談で、大名会議、家臣会議(上院と下院)を設立することに基本的に合意したりしている。その後、大名同士の結び付きが貴族院に、旧家臣は衆議院に結び付いていくが、現実には旧家臣はその多くが国家官僚になっていく。

改革は、現権力の足元からはなかなか起こらない。本来、未開の外縁部から出てくるものなのだ。現代の日本も、四分五裂のばらばらで、政治は何もできないでいる。志を持ってそこをつなげていける西郷のような人物が必要なのではないか。

──改革、革命の主人公が西郷として、第3章の「建設」の時代の主人公は誰?

西郷に関する史料は、ほとんど勝田孫弥による伝記(1894年刊)に負っている。筆者は同じ鹿児島の出で、西郷を尊敬し藩士として生きた人。この伝記は「西郷の花は戊辰戦争で終わるから本書もそれで終わる」と。「それ以降の明治維新を読みたい人はこれから書く『大久保利通伝』(1911年刊)を読んでほしい」とある。

その本で大久保についても花のあるときを書いている。岩倉使節団の一員として英国に行き何十もの工場を見学する。明治政府の実力者で、地位は今なら経済産業相以上だ。その彼が自ら工場を巡る。「建設」というタイトルの章を設けたのは、この大久保の殖産興業のためだ。

ただし、このとらえ方は新しい発見ではない。魅力的に書いているが、米国の学者が1960年代にモダナイゼーションセオリー(近代化論)にまとめている。その筆頭の人物が大久保だった。日本にもこういう開発独裁型のリーダーがいたとして、この学説はかなり定着している。

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