この時、蝶理モスクワ店の女子社員たちはエリツイン大統領の男らしさに拍手喝采していた。でも、無名だったプーチンがこれほど長期にわたって人気を維持するとは、いったい誰が予想しただろう。
話を元に戻そう。国際的にはノーベル平和賞まで受賞したゴルバチョフ氏は好かれず、アルコール中毒だが男らしいエリツィン氏は人気がある。ロシア国民の特徴がここに隠されている。それは、ツァーリ(ロシア皇帝)の時代から、政権の中心に座る権力者は強くて男らしくなければ「大君主」として認められないのだ。
歯に衣着せぬ率直な物言い
農奴が多く、モンゴル系タタール人に支配されていたこともあるロシア人には、冷酷なほど強い意思力を持つ権力者に憧れる素地があるのではないかと筆者は推察している。ロシア人にとってゴルビーは、欧米に言われるままにペレストロイカやグラスノスチを進めて旧ソ連を崩壊させた人物として、「敗軍の将」に見えるのではないだろうか。
さて、プーチン人気が高まったのは、大統領就任後の「チェチェン進攻作戦」からだ。断固としてイスラム過激派を殲滅するのだという強い意志力を国民は確認した。ウクライナ紛争やシリア紛争でも、明確な行動で対処する「強い君主」に映るのだ。
プーチン大統領の記者会見の模様を見ていると、資料を見ないで自分の意見をとうとうと述べる頭脳明晰さに驚く。言いにくいことも歯に衣着せぬ率直に発言する姿勢に、拍手喝采したくなるのはロシア国民だけではないはずだ。リュドミラ夫人との離婚会見も印象深いものだった。「俺は政治に没頭するために離婚を選んだ」とばかり、クレムリン宮殿でバレエを鑑賞した後に、テレビのインタビューで離婚発表をした。新体操の大スター、アリーナ・カバエワとの愛人関係も公然の秘密となっているが、2組に1組が離婚をするロシアの国民性ゆえに問題にはならないのだろう。
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