ついにアメリカが中国の増長を非難し始めた 南シナ問題を巡り中国への態度を硬化

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米国は一定の抑制も利かせている。ブリンケン米国務次官補が、楊潔篪国務委員と房峰輝解放軍総参謀長に対して説明したのは米国の法的な考えだったとしても、事前説明すること自体政治的な意味があり、米国としては余計なトラブルは避けたいという考えも伝わると踏んでいたと思われる。

しかし、米国が南シナ海について異例に強い姿勢で臨んでいることは疑う余地がない。南シナ海について米中の考えはあまりにもかけ離れている。
中国は南シナ海全域について、中国の領域だと主張している。いわゆる「九段線」で囲まれる海域だ。

中国の主張は明確な国際法違反

一方、米国は多国間の領土紛争については関与しないことを原則としているが、南シナ海についてはよく研究している。2014年12月に発表された米国務省の海洋国際環境科学局の報告書は、中国の主張は、主張自体の不明確さ、根拠となる文献の欠如などの理由で国際法に合致しないと断定している。

同報告書には、政治的に特定国の主張に加担するのではないという趣旨の断りがついているが、違法か否かの判断は大きな意味がある。

国務省の記者ブリーフでは、これまでの米国政府の「第三国間の領土紛争においていずれかの国に加担することはしない」という方針と一貫していないのではないかという質問が出たのに対し、報道官の回答はしどろもどろであった。

ともかく、中国の、南シナ海のほぼ全域を「古来中国の領域だ」という主張も、他国との領土紛争を国際的なルールによって解決せず「地域内の国同士の話し合いで解決する」という主張も、また、公海上の自由通航の権利を持つ米国を排除しようとすることも、明らかな国際法違反だ。

しかも、中国が一方的な主張をするだけでなく、埋め立てなどの実力行使まで断行するのであれば、米国を含む関係国との衝突は避けがたくなる。これは米国として最も恐れていることであり、中国に対し国際法に従うよう求めるのは当然だ。中国がこの問題の深刻さを理解するまで、強く要求し続けなければならない。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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