傷口から感染、神経毒でマヒ…破傷風「ワクチン出荷停止」の懸念――日本が“破傷風大国”という汚名を着せられている理由《医師が解説》

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一般に、破傷風ワクチンによる予防効果は、接種後おおむね10年で消失するとされている。

感染症対策が徹底されているアメリカでは、3種混合ワクチン(破傷風・ジフテリア・百日咳、Tdap)の初回接種後、10年目に1回追加接種を行い、その後も10年ごとに破傷風とジフテリアの2種混合ワクチン(Td)によるブースター接種が推奨されている。詳述はしないが、欧州も同様の対策を講じている。

このように、定期的な追加接種が制度として整備されている欧米と比べると、日本の体制は大きく異なる。成人以降の接種が任意であることから、抗体を保有する率の低下が見逃されがちである。

この違いこそが、日本が「破傷風大国」という汚名を着せられている理由だと筆者は考えている。

我が国における成人向けの定期接種は、財政的な制約もあり、現在のところインフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹ワクチンなどに限られており、その対象を拡大する動きは見られない。したがって、自らの健康は自ら守るという意識が求められる。

筆者自身、50歳を迎えた際に、破傷風とジフテリアの追加接種(Tdワクチン)を受けた。60歳になったら再度、接種するつもりである。

緊急接種が必要な人はどうする?

話を破傷風トキソイドワクチン出荷停止に戻す。

海外渡航の際の予防接種として、破傷風ワクチンを接種しなければならない人がいる。特に災害支援や途上国での勤務などで、緊急に接種が必要な人はどうすればいいだろうか。

この場合、輸入ワクチンによる代替接種が現実的な選択肢だ。例えば、サノフィ社製のTd Vaxやグラクソ・スミスクライン社製のBoostrix(Tdapワクチン)などが、医療機関を通じて入手可能だ。費用は1回あたり6000~9000円程度が目安である。

副作用に対する公的補償制度は適用されないが、これらのワクチンは国際的に広く使用されており、安全性は高く、重大な副反応は極めて稀だ。接種してから実際に抗体ができるまでは時間がかかる。必要な人は、予防接種を行っている医療機関の医師に相談してみるといいだろう。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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