傷口から感染、神経毒でマヒ…破傷風「ワクチン出荷停止」の懸念――日本が“破傷風大国”という汚名を着せられている理由《医師が解説》
さらに小学6年生相当の時期に、ジフテリアとの2種混合ワクチン(DT)として、1回接種が推奨されており、計5回の接種が基本スケジュールとなっている。
今回の出荷停止が長期化すれば、これらの定期接種の実施に支障が生じ、本来予防が可能だった破傷風を発症するケースが、今後出てくる可能性が懸念される。またこの影響は小児にとどまらず、成人に対する接種にも波及する恐れがある。
そこで本稿では、我が国における破傷風対策の現状と、その課題について概説する。
破傷風は恐ろしい感染症
まず、破傷風とはどれだけ恐ろしい疾患か、説明したい。
破傷風は、破傷風菌(Clostridium tetani)の感染によって発症する。菌は主に傷口から体内に侵入し、強力な神経毒(テタノスパスミン)を産生することで、全身の筋肉が固まったかのようなけいれんを頻繁に引き起こす。特に呼吸に関係する筋肉がこの毒素に侵されると、呼吸困難が生じ、致死的となることもある。
破傷風では、背中の筋肉が持続的に収縮し、体幹が弓なりに後屈する「後弓反張(こうきゅうはんちょう)」と呼ばれる特徴的な姿勢をとることがある。

1980年に公開された野村芳太郎監督の映画『震える舌』では、破傷風に罹患した少女と、その看病に尽力する両親の姿がリアルに描かれている。
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