傷口から感染、神経毒でマヒ…破傷風「ワクチン出荷停止」の懸念――日本が“破傷風大国”という汚名を着せられている理由《医師が解説》

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たとえば、アメリカでは年間の発症数は30例未満、人口100万人あたりの発症率は0.1人以下にとどまる。ドイツ、フランス、イギリスなどの西欧諸国では、年間発症数はおおむね10例以下であり、人口比では0.01人以下とされる。このような状況から、日本は国際的に見て「破傷風大国」と呼ばれることもある。

中高年者に予防接種が必要なワケ

イギリスのメジャーな医学誌『ランセット(The Lancet)』は、2019年6月8日号に日本で発生した破傷風の症例を報告している。

患者は80歳の男性で、庭の手入れ中に右手を負傷し、わずかな傷口から破傷風菌が侵入したと考えられた。一命は取り留めたものの、右手にマヒが残った。

この症例は、破傷風がクギを踏み抜くなどの深部外傷によって発症することが多いだけでなく、ごく小さな外傷でも発症する可能性があることを示している。

加えて、ランセットの編集部がこの報告を取り上げた背景には、高齢者を含むすべての人に対し、ワクチンによる予防の重要性を国際的に喚起する意図があったと考えられる。

実は、日本人の50代後半以降の中高年層、とくに高齢者の多くは、破傷風に対する十分な免疫を持っていない可能性が高い。なかには、抗体をまったく保有していない人もいる。

これは、我が国で破傷風ワクチンの定期接種が開始されたのが1968年であり、それ以前に生まれた世代は、原則として小児期に接種を受けていないためである。

したがって、これらの世代に対しては、早急な追加接種が望まれる。

幸いにも、破傷風はワクチンによりほぼ完全に予防可能な感染症である。これまでに接種歴がない成人の場合、初回接種後、1カ月後に2回目、さらにその6カ月後に3回目を接種する、計3回の基本免疫が必要となる。

費用は自己負担で、1回あたり3000~4000円、3回分でおおよそ1万~1万2000円程度とされる。

決して安価とはいえないが、感染時の重篤化や治療の負担を考えれば、費用対効果は極めて高い。とくに1967年以前に生まれた方は、速やかな接種を強く勧めたい。

破傷風ワクチンをめぐる問題は、ほかにもある。

実は、前述したように乳幼児期に定期接種を受けた人であっても、生涯にわたり安全とは言い切れない。これは、ワクチンの効果が時間の経過とともに減弱するためである。

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