傷口から感染、神経毒でマヒ…破傷風「ワクチン出荷停止」の懸念――日本が“破傷風大国”という汚名を着せられている理由《医師が解説》
見る人によってはかなり怖い映画だが、破傷風という疾患への理解を深めるうえで、医学的にも示唆に富む作品である。興味がある方はぜひ一度ご覧いただきたい。
『震える舌』では、重症の破傷風に罹患した少女が治療を受ける光景が映し出される。
破傷風の治療は、今も破傷風毒素の中和と、症状の管理が中心だ。まずヒト免疫グロブリンで毒素を中和し、抗菌薬(主にメトロニダゾール)で原因菌を除去する。さらに筋肉のけいれんにはジアゼパムなどの鎮痙(ちんけい)剤を使用する。
昔は致死率の高い感染症だったが、近年では、重症例は集中治療室に入院し、人工呼吸管理をすることで、救命率が高まっている。
破傷風が外傷と深く関係する疾患であることは、古くから認識されていた。その病名自体も、中国の伝統医学の概念に由来している。「破傷」は皮膚に生じた裂傷や外傷を意味し、「風」は中医学における病因の1つである「風邪(ふうじゃ)」を指す。
すなわち、破傷風とは、「破れた傷口から風(=邪気)が体内に侵入することで発症する病」と解釈されたものである。
この名称は、現代医学の視点から見れば病因論としては誤っているものの、外傷と感染との因果関係を古代においてすでに経験的に捉えていたことを示している。
自然界に存在するありふれた菌
破傷風菌は、自然界に広く存在するありふれた菌である。嫌気性菌であり、酸素のない環境下で増殖する。世界中の土壌に分布しており、日本では関東ローム層からも検出されている。
1990年代前半、筆者が医学部で細菌学を学んでいた当時、指導教員からは「本郷キャンパスの土壌にも多数存在しており、動物の腸管や糞便の中にも見られる」と繰り返し教えられた。
ということは、誰もが感染リスクにさらされているということである。
実際、日本国内でも毎年一定数の破傷風症例が報告されている。
国立健康危機管理研究機構(Japan Institute for Health Security:JIHS)が公表する「感染症発生動向調査週報」によれば、2024年には85例、2023年は106例、2022年は94例と、例年おおむね100人前後が破傷風と診断されている。
日本における破傷風の罹患数は、人口100万人あたり0.7~0.9人程度で推移している。これは欧米諸国と比較して高い水準である。
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