放置された空き家でも「貴重な文化財」、解体寸前だった戦前木造モダニズム建築「三岸家住宅アトリエ」。孫娘が必死に模索する継承

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そこで2010年からは長らく空き家だったアトリエを一般公開。講師を招いて趣味の教室を開催したり、講演会や落語会、ギャラリーとして使うといった事業を始めた。

アトリエ
らせん階段が印象的なアトリエ。上がったところに作業室同様に細長い和室がある(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)
もうひとつの玄関方向
増築部分からアトリエともうひとつの玄関方向を見たところ(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)
アトリエ
らせん階段のある側から建物奥側を見た様子。壁の向こうに水回り、トイレなどがある(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)

中野区社会福祉協議会が主催する地域の人たちの交流のきっかけづくりを目指す「まちなかサロン」にも参加、アトリエにはさまざまな人たちが出入りするようになった。

2011年には20年ローンを組んで底地を購入。2014年には中野区内の歴史的建造物の保存活動に取り組む市民団体「中野たてもの応援団」のサポートを受け、「三岸家住宅アトリエ」として国の登録有形文化財の認定も受けた。

のしかかる経済的負担

こうやって時間を追って書くと、残す方向に着々と進んでいたように思われるかもしれない。だが、アトリエは開かれ、価値は認められたものの、それ以上の道筋は見えていなかった。

外壁
外壁その他がだいぶ劣化していることが分かる(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)
玄関を入ったところ
玄関を入ったところ。現状、だいぶ荒れた状態(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)
2階の和室
2階の和室から公道側。天井その他だいぶ傷んでいる(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)
タイル張りの浴
タイル張りの浴室(写真:©三岸アトリエ 撮影/千葉正人)

購入した底地のローンに維持管理、修繕費用の負担は重く、そこに今後相続が発生したらどうなるか。

登録有形文化財になると相続税、固定資産税などの税制面の優遇措置は受けられるものの、日々劣化する建物の維持管理には誰もお金を出してはくれない。いくらアトリエでイベントを開催しても、それは十分なお金にはなっていなかった。

2010年の時点で建物はすでに築76年。雨漏り、傾きその他不具合は多く、部分的な床の貼り替えですら100万単位の費用が必要だったことを考えると、残していくためにはいくら必要か。想像もつかないほどだった。

後編では、建物の継承がどうなったのか、今後の展望や課題などについてレポートする】

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【写真】竣工時の写真や現在の様子など。建物内部の雰囲気も伝わるだろうか(18枚)
中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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