《震災から何を学んだか》通信インフラ--電源対策など一定程度進むが事業者でバラツキも
総務省で行われた災害対策の検討会ではこの技術の導入が議論された。だが、企業秘密を理由にシステム設計を完全には公開しないまま、通信事業者が「現状の設備では対応できない」と一蹴してしまった。
情報通信研究機構で災害対策を統括する担当者は、「通信事業者のシステムの詳細がわからないまま研究せざるをえない。導入コストも試算できず、なかなか実現されない」と嘆く。
情報通信研究機構は、高速化の研究などでは通信事業者と緊密に連携をとってきたが、震災対策ではなかなか協力が得られない。「これまでの轍を踏まないように研究体制を整えていきたいが、強制力がないのが悩み」と同担当者は打ち明ける。
障害少ないメール 衛星電話も有効
高確率で発生が予想される今後の大震災に関して専門家は「首都圏直下型地震では大規模な地域で孤立が発生する。東南海、南海地震では、孤立地域は広範囲に点在する」(田中淳・東京大学大学院情報学環・総合防災情報研究センター長)と分析する。
ただし、巨大地震や大津波による長期間の電源喪失にも耐えられ、数十倍の通信量でもつながるネットワーク構築はコスト面から不可能だ。
災害時の通信インフラに詳しい野村総合研究所の北俊一・上級コンサルタントは「大規模災害時に完全に機能するネットワークはありえない。機能の多重化を進めたうえで、利用者の協力も必要」と強調する。
では、利用者には何ができるのか。
まず、災害時の安否確認は音声通話を避け、パケット通信を利用すると通信障害を軽減することができる。ドコモの場合、今回の震災では、音声通話が通常時の50~60倍に増加したが、パケット通信は2~4倍に増加した程度。発信規制も音声の9割に対し3割にとどまった。この傾向は各社とも同じだ。
しかし、やはり文字ではなく家族の声を聞くことで安心したいというニーズは根強いため、携帯事業者6社は音声メッセージをパケット通信で送るサービスを準備。現在は、同一キャリア同士のやり取りのみだが、12年度中には他キャリア間にもサービスを拡大する予定だ。