米国は12月、間違いなく利上げに踏み切る 実体経済順調、金利正常化は正しい政策だ

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細かいことだが補足すると、9月末、日本の新聞にサウジアラビアの政府系ファンドが日本株を売却という記事が出た。あるいは、いくつかのファンドが資源関連の企業の株価が暴落したことにより損失を出したという記事が出た。これはまさに今回の危機の本質を突くものであった。

危機はこのときには終わっていたのである。終わっていなければ一般の人たちに公にすることはないからだ。今振り返れば、あれが終了のサインだったのだろう。原油価格はそれ以降、確実に回復トレンドに入り乱高下しなくなった。

では、今後の株価は順風満帆か。米国投資家アンケートでは強気の見方が急増している。ということは、短期には強いだろう。しかし、その後は危うい。資源価格の低迷という事実は動かないからだ。

上がりも下がりもしない市場に

傷ついた投資家センチメント(市場心理)は簡単に回復しない。回復するのは、傷ついたことを忘れるぐらい損を取り返し、大きく儲けた後である。損失を出した投資家以上に儲けた投資家が出てきて、全体の投資家センチメントはやっと回復する。

現在、これが起こるためには、資源価格が相当戻らないといけない。あるいは代わりのバブルがどこかで起きなくてはいけない。今のところ、資源価格とりわけ原油価格は一応回復し安定したが、WTIで1バレル50ドルを上回り60ドルを目指すという展開にはなっていない。現在の40ドル台後半のままでは、低位安定にすぎない。前回の暴落、乱高下ステージは終了したが、なにかきっかけがあれば、もう一度下落局面に入る可能性はある。株価も落ち着いたままで、上昇局面に入ったわけではない。

今後、投資家および投資家センチメントにとって何かしらネガティブなニュースが出て、12月のFRB(米国連邦準備制度理事会)の利上げが重なるような展開になると、再び乱高下する可能性がある。

しかし、今度こそFRBは実体経済次第で利上げに踏み切り、市場のセンチメントが悪いだけでは延期しないだろう。一時的に株式市場は混乱を起こすだろうが、実体経済は順調で金利の正常化は正しい政策であるから、混乱は短期で収まるだろう。上がりも下がりもしない、トレーダーたちにとってつまらない穏やかな市場になり、「市場の声」と称して文句を言って騒ぎ立てるだろう。それが今後の見通しである。

小幡 績 慶應義塾大学大学院教授

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おばた せき / Seki Obata

株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2001~2003年一橋大学経済研究所専任講師。2003年慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授、2023年教授。2001年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に『アフターバブル』(東洋経済新報社)、『GPIF 世界最大の機関投資家』(同)、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)などがある。

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