「あそこの串カツ田中、潰れたのか…え、そんな店に変わったの!?」 串カツ田中“跡地“に出現した「高級とんかつ店」の正体

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「楽しい体験」か「面倒くさい作業」か、その分かれ目は?

まず、立地からしてミスマッチだ。本社近くでテスト的にオープンしたのかもしれないが、「厚とん」があるのは、体験型の付加価値を楽しみに来るような場所ではない。駅からはやや離れた静かな裏路地にあり、実際に訪れているのは近隣と思われる人々。日常の合間に食事をしに来ているであろう人が大半だった。体験型の飲食店は、ワクワクしながらわざわざ訪れるもの。ターミナル駅や観光地的要素の強い場所でないとなかなかお客のテンションが付いてこない。

そして、商品提供までのライブ感に欠ける。例えば劇場型ハンバーグの代表格と言える人気店「挽肉と米」では、お客の目の前にある炭焼き台でハンバーグが焼かれる。焼ける音、こうばしい香、次第に色づく肉……ここまでされたらお客の期待値はマックスになる。

しかし「厚とん」は奥の厨房で揚げた完成型がいきなり出てくるだけで味気ない。待つ間、とんかつの衣が油の中できつね色に色づく様子でも見ていたら、また印象は違ったのかもしれない。せっかく羽釜で炊いているごはんもそうだ。筆者が訪れた時は羽釜から盛られることなく提供されてしまった。内装もいたってシンプル。落ち着いて食事ができるが、非日常的なワクワク感はそこまで感じられない。

渋谷の劇場型ハンバーグ店「君のハンバーグを食べたい」は、店内の一角に精米機を置き、さらに米の袋を積んでごはんへのこだわりをアピール。お客の期待を高める見せ方がうまい(筆者撮影)

このように体験を楽しむための下地ができていないと、体験は単なる作業に成り下がってしまう。

店がつくり出す高揚感があれば、たくさんの調味料を選んで試すことも、自分でごはんにとんかつと卵をのせてつくるかつ丼も「楽しい体験」になる。ところが何の雰囲気も整わない中、「さあ、体験してください!」と言われても、テンションが追いつかない。

お腹が空いて早く食べたいのになぜ自分でやらなければならないのだ……という「作業」になってしまうのだ。

体験型ハンバーグ店の例
中目黒などで展開する「釜元はん米衛」では、一人一釜のごはんを自分でよそい、ハンバーグは鉄板で自分好みの焼き加減に追い焼きし、各種調味料で味変する体験型のハンバーグ店だが、演出過多で食事中にこなす作業が多く少々疲れる(筆者撮影)

中身が伴わず、かたちだけのインスパイヤでは厳しい。「厚とん」では美味しいとんかつと外食ならではの体験価値を用意しているのだから、それを楽しめるような雰囲気づくりがあればその真価が発揮できそうだ。

もしくは、中途半端に体験をちりばめるくらいならいっそもう少し手頃な価格で日常使いのトンカツ屋にするべきだ。

大関 まなみ フードスタジアム編集長/飲食トレンドを発信する人

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おおぜき まなみ / Manami Ozeki

1988年栃木県生まれ。東北大学卒業後、教育系出版社や飲食業界系出版社を経て、2019年3月より飲食業界のトレンドを発信するWEBメディア「フードスタジアム」の編集長に就任。年間約300の飲食店を視察、100人の飲食店オーナーを取材する。
Instagram:@manami_ohzeki

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