こうした措置は、経済情勢が一時的に悪化した場合に、将来への対処を行う間のつなぎとしては正当化できるかもしれない。しかし、そのためには、将来に向かっての、正しい方向付けがあることが条件だ。将来の見通しなしにこうした支援を行っても、財政資金の無駄遣いでしかない。
そうした見通しがない場合は、企業を追いつめて再建を強制し、人員削減に追い込むしかないだろう。前回、アメリカの自動車産業が回復している様子を見た。JALも急速に復活した。ある意味では意外だが、労働組合の強さを考えれば当然だ。過剰な人員を切り、既得権益集団を排除したから回復できたのだ。
経済全体も、とことん追いつめられないと、変われないのかもしれない。もちろん、私は雇用を切り捨てればよいと言っているのではない。セーフティネットを充実させて助けるべきことはいうまでもない。
しかし、上で見たように、本当の負担を負っているのは若年者である。彼らには何の援助も保護も与えられていない。彼らが救われるのは、新しい産業が登場して雇用が創出される場合だけである。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2012年3月31日号)
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