ほとんど全てのM&Aは、友好的に行われる 「敵対的イメージはメディアの作り話だ」

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──つまり買い手側主導のM&Aではない?

M&Aを事業承継の手段としてきた側面もある。60~70歳のオーナーが跡継ぎを探す。息子がいない、あるいはいても大手企業に在籍し中小企業は肌に合わないとして継がない。そこで外部に譲りたいとなり、売り主になる。勝手知ったる社員に譲ればととかくいわれるが、小企業であっても2億~3億円の企業価値が普通ある。それを買い取り、さらに借り入れの連帯保証もできるような一般社員はそういない。

最近のM&Aの流れは同様に売り手側主導だが、売り主が戦略的に自社を格上げするにはどこと一緒になったらいいかと考えて、相手を探していく。今は証券会社も売り手から入るようになった。ただ、売りたい会社の数自体は少ない。売るかと1000社に聞いて回って1社がようやく手を挙げるかどうか。M&Aは意外にリスクが少なく、あるリスクもよく見え、突発事故さえなければ、それも7~8年で解消する。

業界再編期こそ売却のベストタイミング

──業界によってM&Aへの取り組みに濃淡があるのですか。

渡部 恒郎(わたなべ つねお)/ 1983年生まれ。京都大学経済学部在学中にベンチャー企業の経営に参画。卒業後、退職して日本M&Aセンターに入社。8年で70件を超える中小・中堅企業のM&Aを成約させる。トータル・メディカルサービスとメディカルシステムネットワークのTOBでは過去最高のプレミアムを記録した(撮影:田所千代美)

特に業界再編の渦中の会社にM&Aをポジティブな選択肢との認識が広がっている。平たく言えば、従業員10人の会社で20人分の仕事が来てもこなすことができない。であれば、ほかの20人の会社と一緒になって30人体制でもっと大きな仕事を取ればと考える。

──中でも9つ以上の業界が再編の渦中にあると詳述しています。

もちろん業界によって再編のタイミングが違う。たとえばガソリンスタンドやタクシー業界は規模の大きい再編は終わった。実は医薬関連が再編過程の事例としてわかりやすい。隣接業界に波及しているからだ。まず医薬品卸業界が4社に統合されて、すでに完了。調剤薬局は再編の波がピークに向かい高まり、一方のドラッグストアは最終局面にある。

最終局面のドラッグストアは業界上位10社で全国シェアが今60%近い。その少し前の時期にM&Aが頻発した業界だ。通例、上位10社のシェアが50%に到達する前後に、県で1位の会社の売却が盛んになる。実際ドラッグストアは2013年に一斉に売却された。いずれも年商300億~400億円の地場の名士企業。それ以前は買い主だった。このように上位10社シェアが50%に近づくと、地域1番店でも不安定になるのが経験則なのだ。

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