フィリピン「鉄道員育成施設」日本が支援する背景 地下鉄の基地に設置「日本式」で安全意識浸透
例えば、日本では駅のホーム整理や安全監視、出改札を同じ駅係員が行うが、フィリピンではすべて分業制になっていて、同じ駅の中でも連携が取れていない部分がある。ホームに立っている係員は鉄道事業者ではなく民間警備会社の人間である。よって、既存鉄道員の研修には、各線で委託を受けている警備会社も含めている。
駅以外でも、他分野や部署に興味がない、連携が欠けているといった面は多々あるため、共通科目の中で、コミュニケーションやクリティカルシンキングなど、ビジネススクールで学ぶような一般教養的なことも含める工夫をしているという。
そして、最も重きを置いているのは安全に対する意識づけだ。過去に発生した事故の事例研究、日本の安全綱領の唱和など、輸送の安全・労働安全衛生に多くの時間を割いているという。最終的にフィリピン語訳された教科書は、分野別の14冊に仕上がった。どれも辞書のように分厚く、かなりのボリュームだ。

施設は建設途上、どこで研修?
組織としてのPRIは運輸省の付属機関として、2019年11月に大統領令により設立。コロナ禍による困難もあったが、2022年には指導員の研修も再開し、東京メトロの研修センターや実際の現場で実施した。
指導員は20代から30代と意外にも若く、エンジニアであっても鉄道には初めて触れるという人がほとんどだったそうだ。これには鉄道経験者がそもそも少ないというだけでなく、熟練レベルの人になると、給料の高い外国に行ってしまうというフィリピンならではの事情がある。ただ、鉄道を何も知らないからこそ、知識の吸収力や自ら学ぼうとする意志は高く、50人ほどの指導員が養成された。
なお、大統領令に基づいて設立されているため、免許を与える権限は与えられず(免許を与えられるのはフィリピンの共和国法によって設立された機関のみ)、運転士免許の交付は実現できなかった。だが、他分野同様にまず技術認証をしたうえで運転士としてのIDカードを与え、免許と同等の効力を持たせているそうだ。
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