フィリピン「鉄道員育成施設」日本が支援する背景 地下鉄の基地に設置「日本式」で安全意識浸透

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PRIプロジェクトの背景には、フィリピンで鉄道人材の需要が高まる一方、安全や維持管理を担う人材育成のシステムや制度そのものが整っていなかったことがある。

「フィリピンには従来、国家資格としての鉄道運転士免許(日本でいう動力車操縦者運転免許)がなかった」。PRIのプロジェクトに携わってきた、東京メトロ国際ビジネス部課長(フィリピン/ベトナム)の谷坂隆博氏は、同国の鉄道を取り巻く状況について語る。

東京メトロは2014年に南北通勤鉄道(駅前開発計画策定)のプロジェクトに参加したことをきっかけにフィリピンで多くの鉄道案件に関わっており、谷坂氏のフィリピンとの関わりも同年から。その後も地下鉄のプレFSに始まり、現在の施工管理と並行して「フィリピン鉄道訓練センター設立・運営能力強化支援プロジェクト」(PRI-TA:Technical Assistance)の技術協力を担当してきた。

マニラ地下鉄 建設中
建設が進むマニラ首都圏地下鉄事業のCP101工区。「フィリピン鉄道訓練センター(PRI)」は同工区に含まれる車両基地に建設中だ(筆者撮影)

巨大鉄道プロジェクトで人材育成急務に

フィリピンの鉄道は運転士免許が存在しないだけではなく、国としての規制が存在しない。運輸省傘下にある国鉄(PNR)や民間企業が運行を受注しているマニラのLRTなど、路線ごとの事業者が個別の規定で運営しているのが実態で、その結果、事故や運休の多発など輸送品質の低下が顕著になっていた。

その最たるものがPNRの実態(2024年10月22日付記事『首都の通勤線「廃止」フィリピン国鉄の残念な現状』参照)である。LRTの輸送品質は近年、黒字化を果たした1号線を中心にようやく向上しつつあるが、日本のODAで建設されたLRT2号線は、18編成ある車両のうち半数程度しか稼働できていないという現状もある。

そんな中、同国では日本のODAにより、マニラ首都圏地下鉄事業と「南北通勤鉄道事業」(マロロス―ツツバン間37.7km)、「南北通勤鉄道延伸事業」(マロロス―クラーク国際空港間・ツツバン―カランバ間計112.7km)という3つの鉄道プロジェクトが同時進行している。これらの総事業費は約1.6兆円に達し、フィリピン史上最大規模のインフラ開発でもある。

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